プロトタイプ

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固まったままの私の体が、大きく弾き飛ばされた。 そのコンマ数秒後、派手な音を二度たてて、車が何かと衝突した。 私は起き上がった。 両腕を見る。 立ち上がってみる。全身に意識をまわす。 無傷だ。 目の前を見る。 車のボンネットが民家の塀に突っ込んでいた。暗いので運転席は見えない。 私はアスファルトの地面の上に視線を移した。 ちぎれた特殊合成皮膚。 転がった足。 私のすぐそばに腕。細くて、長くて、白くてきれいな指。 その断面から覗く、黒や赤や青の無数のケーブル。 私は振り返る。 茶色がかった艶のある髪が、日のとっぷり落ちた街のアスファルトと同じ色に染まっている。 腕と足の主は、虚ろな目をして、血の一滴も流さずに横たわっている。 お姉ちゃんだった。
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