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桜が盛りの季節。
お姉ちゃんは少し前に学校を"卒業"した。
そして私は⸺
『寂しいんだけどー!』
「そう言ってくれて嬉しいよ、明日香」
『もう転校とかー。アンナのお母さん、仕事何してるの?』
「え、よくわかんない」
『えー』
二年生にならなかった。
どうやらあの学校は、お姉ちゃんと一緒に私も一年間だけ、という話をお母さんが去年通していたらしい。
私の期末試験の成績は学年最優秀だったから、お母さんはご満悦で、たくさん褒めてくれた。お姉ちゃんは三番くらいだったけど、やっぱり私と同じようにたくさん褒められた。
月曜日の十二時三十分過ぎ、自分の部屋のベッドの上で、昼休み中であろうかつての友と通話で話す。
『新しい学校はどうよ?』
「まだ決まってなくて。今も家にいるんだ」
『いいなー!こっちはもうバリバリ授業だよ。鬼の塚本ぉ』
「あー、数学の。今年も塚本先生なんだ」
『そうなんだよ、アンナがいなきゃ乗り切れないわぁ、もう』少し声が遠くなる。『え?今ねぇ、アンナと話してんの。電話電話。羨ましいでしょー』
相変わらず必ず周りに誰かいるらしい。今年も同じクラスだと聞いているので、坂田くんだろうか。
『ごめんごめん、坂田に絡まれた』
案の定の坂田くんである。
『やべ、課題終わってないんだった……ね、またうちらに会いにきてよ、みんな寂しがってるからさ』
「うん」
『じゃね!健康に気をつけなよ!』
明日香は手短に挨拶した後、またマイクから離れて『あー!坂田!コロッケパン!』と喚き、そこで通話は切れた。
電話が切れた瞬間、あの騒がしい教室から置いて行かれてしまったような気がした。
「お姉ちゃんと話そ」
私はベッドを降りて廊下に出ると、隣のお姉ちゃんの部屋の扉を叩いた。
二回ノックが無難。三回はお手洗いをノックする時の回数だから嫌がる人もいるかもしれないと、これもお姉ちゃんが教えてくれた。
「お姉ちゃん?アンナだけど」
「なあに?」
私の扉を叩いた手が一瞬止まった。
返ってきたのは、お姉ちゃんの声ではなかったからだ。
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