愛読書を知る

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愛読書を知る

 高校の頃、夏休みの現国の課題で「読んでくるように」と与えられた文庫リスト。  何となく、鷺沢萠(さぎさわめぐむ)の『葉桜の日』を選んだ。この1冊は、まあこんなもんかってくらいの印象だったけど、他のも読んでみたいなぁと思い、いくつか読みました。    作品にもよるけど、この人は物語の世界を泥臭く描いていて、オシャレで洗練された世界を描く女性作家とは、一線を画すようでした。  家族や街、それからルーツをテーマにした作品が多い。  特に『帰れぬ人びと』という短編集に収載されている『朽ちる街』という作品は印象深くて、今ではスカイツリーのそびえる曳舟や業平橋のあたりを舞台に、古い時代と人、それからの虚しさが、この人らしく表現されてます。    それからもう1冊、『駆ける少年』っていう短編集が素敵でした。どうもこの人は、挫折した男がアイデンティティを探るような物語が好きなようです。そしてそれを描くのが上手い。誰の心にもあるような、触れると痛いからそのままそっとしておいている部分を、「ちょっと見せてみ」と優しくも強引にこじ開ける女医のような(意味不明)  35歳という若さで亡くなったのは、すごくショックでした。  好きな小説ってたくさんありますが、「何度も読む」という経験は初めてだったかもしれません。それまでは、愛読書って何? 1回読んだら終わりじゃないの?って感じだったけど、何度も何度も読んだ。  文庫本がボロボロになるまで読んだ経験はもうひとつあって、それがビートたけしの『少年』『あのひと』という2つの短編集です。  僕にとって、この人はお笑い芸人でも映画監督でもなく、小説家です。    『少年』は薄っぺらい文庫本でした。でもそこに描かれた話にはすべて、懐かしさと、でも単なる懐古ではない、生きることの物悲しさ、そして同時にエネルギーも満ちてました。本人いわく「ノスタルジーなんかじゃない」、きっと誰もがかつて持っていた、手探りのくせにどこか確信に満ちたあの少年世界を、いろんな手法で表現してみせたんだと思う。    徒競争で一位になることだけが誇りのガキ大将、兄とシリウスを観るために坂を駆け上がるいじめられっ子、旅先で女の子の柔らかさを知って初めての恋慕と欲情に困惑する家出少年…。    そして『あのひと』にも、むき出しの感情と突き進むパワー、何かが間違っていると感じても引き返せないし、引き返すわけにはいかないっていう、あぁそういうのカッコいいなって。いやカッコ悪いんだけど、どうせ何もできないんだったらそういう生き方したいなって思わせてくれるような姿が描かれているんです。    たけしが好きだと書いていた言葉。歌のタイトルでもありますね。    見る前に跳べ――。
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