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ホワイトコメディ
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、世間の評価とか視聴率はよくわかりませんが、とても面白くて、妻と毎週楽しみに観ています。
三谷幸喜という人が、そもそもすごく好きでした。自分がこの人の魅力を言葉にするとき、「ホワイトコメディ」という言葉が頭に浮かびます。
たぶん誤解を招くと思うので補足すると、「誰も傷つけない」とか「優しい」という意味ではありません。文字通りですが、ブラックコメディの対義語として勝手に作った言葉です。
善か悪かの対比じゃなく。
ブラックコメディは左脳に訴えるもの。あははと笑うんじゃなくて、風刺や皮肉、裏に隠れたメッセージのような、「なるほどね」「うまいこと言う」と言ってニヤリとするようなヤツ。好みの問題なんですが、僕はこれにあまり惹かれないんです。
他方、ホワイトコメディ(と自分が勝手に名付けたジャンル)は右脳に訴えるもので、表情ひとつ、仕種ひとつ、あるいは動きや声色、そういうものでシンプルに笑ってしまう。もちろんそこにはしっかりと緻密な計算や構成が潜んでいるんだけど、結局のところ最後に到達するのは、5つの感覚器への直接的な刺激のみ。
三谷幸喜はその名手だと思っていて、今でも自分にとっての最高傑作は『ラヂオの時間』です。これは揺るぎない。
ラヂオの時間は、三谷さんが若い頃、自分の脚本を現場で勝手に変えられてしまったことのショックをモチーフにして書かれた作品とのこと。
"いつも満足のいくものを作れると思ったら大間違い。それでも、いつかそういうものを作れると信じて作り続ける"
笑いがぎっしり詰まっていながらも、登場人物たちの気持ちが流れ込んでくるような、熱い映画でもある。何回でも観たくなります。
他にも『マジックアワー』『ステキな金縛り』『王様のレストラン』『12人の優しい日本人』等々、この人の名作には枚挙に暇がありません。
コメディの要素だけ抜き出していえば、『踊る大捜査線』の君塚良一や、『ロボジー』『Wood Job!』の矢口史靖も同じように好きなタイプだったと思います(テーマから逸れるので書きませんが、コメディじゃない部分も大好きです)
海外ではロベルト・ベニーニという人の作るコメディも大好きです。有名な『ライフ・イズ・ビューティフル』はナチスの迫害をテーマにしているのに、重いメッセージ性やシニカルな皮肉が描かれているわけでなく、あくまでシンプルな笑いから、家族愛の物語を展開させます。そしてこの監督でもうひとつ、『ジョニーの事情』というコメディ映画も、ホントに声を出して笑ってしまうような傑作でした。
アメリカンジョークというといかにも左脳的な気もしますが、ハリウッドのコメディにも好きなものが多くて、『ホームアローン』シリーズはもちろん、ロビンウィリアムズの『ミセスダウト』、シュワちゃんの『ツインズ』『キンダガートンコップ』『ジングルオールザウェイ』も面白かったです。でも一番は『スリーメン&ベビー』かな…。子どもに翻弄される大人というのは非常にカワイイしユーモラスで、これは鉄板だと思いますね。
同じ理屈で、好きになりたくない(なるわけがない)風刺漫画でも、中崎タツヤの漫画はすごく好きで、『じみへん』『身から出た鯖』などは愛読書だったことを思い出しました。
さて鎌倉殿は、もちろん大河ドラマなのでこれもいわゆるコメディとは言えませんが、怖さも、スリルも、怒りも悲しみも、あるいは不快さすらも、直接届けようとしてくる。どこにって…それは。
一部の少人数作品を除き、多くの三谷作品は前提条件に「群像劇」という要素があって、その意味では、頼朝死後の13人の合議制というのは、もう三谷さんにとって、よだれを垂らしてしまうような獲物だったに違いない。
この作品では人間のズルいところや弱いところ、醜いところを遠慮なく描いていて、この人が本当に人間をおもちゃのように面白がっているのがよく分かります。キャスト的には大泉洋がいなくなった後は寂しくも感じますが、頼朝死後こそこのドラマの本編なので、楽しんで観たいです。
――と思って書いたのが数ヶ月前ですが。
終盤を迎え、どんどんヒールになっていく義時…。どうなっちゃうのだろう。そしてどうして三谷作品なのに戸田恵子と近藤芳正が出ないのだろう。瀬戸康史が月亭方正さんに見えちゃうのは何でだろう。
そんな疑問を抱えたまま年の瀬になりました。どきどき。
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