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それでも俺たちは練習を続けた。もっと速くもっと速く。
「これ以上速くならないですよ」森君が弱音を吐く。
「そんなことはない。君は彼女のことを諦めるのか?」
「なぜ諦めるとかいう話になるんです?ただ、話しかければいいだけじゃないんですか?」
「いつ、どのタイミングで、なんて話しかけるんだ?」
森君は苦い顔をした。
「そりゃあ、抜かれぎわに『こんにちは』とかなんとか、『いつも練習してますね』とか『綺麗なフォームですね』とか、なんでもいいでしょう?」
「もう、俺とは練習したくないってことか?」
「なぜそうなるんです?先生のおかげで十分速くなりました。それはもちろん感謝してます。多分フルマラソンに出たらサブフォーは軽いでしょう。もしかしたらサブスリーも夢じゃないかもしれない。それぐらい走力は上がりました。でも、俺は売れない役者で、ただピンク色のジャージの美女に恋をしているだけなんです」
「わかった。卒業したい。そういうことだな。短い付き合いだった」
彼は俺の元をさった。広葉樹が黄色や赤く色づき、空が高く透明度を増していた。
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