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「また別の日に『随分と背が高いですね』と言ったんです」
俺は黙って頷いた。
「『遺伝だから、選べなかったのよ』と彼女は笑っていました」
「走りながら?」
「そうですね。僕らは常に走りながら話していました」
森君は腕を振って、走る格好をした。
「『何かの代表選手だったんですか?』って聞いたんです。『あなたは若いから私のことを知らないのね』と言ってました。彼女はだから、有名な選手なのだと思います」
谷川真理みたいな選手だろうか。他は誰だ。
『君は随分とはやくなったけど、何か理由があって、猛練習したの?』
「僕は返事に困りました。何か嘘で誤魔化してしまおうかと思ったんですけど、やっぱり僕は彼女のことが好きで、そのことをやっぱりちゃんと伝えた方がいいと思ったんです」
彼が俺をまっすぐにみた。多分その時も同じ表情で彼女を見つめたのだろう。熱い目をしている。逃げ場のない感情を宿していたのだ。
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