恋のランニング 〜ザ・ファースト・テイク〜

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 俺たちはクリニックにいた。アベベ・ビキラのポスターが貼ってある。 「彼女が好きなんだろう?」俺は森くんにきいた。 「そうなんです」 「確かに、ランニングフォームも綺麗だし、足のラインやバランスも素晴らしい」  日本人離れした良いランナーだ。 「毎晩、彼女のことを考えるんです。どんな人なのか、そもそも日本人かどうかもわからない。俺は英語もできないし、日本語だっておぼつかない。それに何処か、有名選手だったりしたら、どうしようかとか」森くんは言った。 「毎晩?それは熱心だな。君は学生か?」 「いえ、学生じゃないです」 「じゃあ、社会人?」 「うーん…フリーターです。でも…」 「でも?何?」 「お芝居やってます」 「お芝居?それはどういうこと?」 「小さな劇団に所属していて、役者志望です」  主役じゃないだろう。イケメンには見えないけどな。 「でも、食えないから」 「で、フリーターなんだ」  恋するフリーター。昭和の匂いがするなあ。
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