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夏がすぎ秋が来た。河川敷にはすすきの穂がたれている。だいぶんと走りやすい気温になった。
「阿部先生、だいぶんと涼しくなりましたね」
軽いジョグ程度なら、森君も話しながらこなせるようになった。
「ああ、君の走りも良くなったよ」
「結構、しごかれましたから」
ヒラメ筋が張り出して、いかにも走り込んだランナーの足をしている。
「でもまだ、彼女には追い抜かれるだろう?」
「そうですね。まだまだ、彼女の方が速いです。でも、以前のようにあっという間に消え去るってほどではなくなりました」
森君の髪が伸びた。紺色のキャップから髪の毛がはみ出ている。
「少しだけならついていけるかも」森君はいう。
「そうかもしれんが。ストーカーっぽくなるぞ」
「そうですけど、じゃあどうしたらいいんです?」
「イケメンになるんだ。彼女は足の早い男を求めているわけじゃない」
「はあ?」
「もっと洗練された男になるんだ。ちゃんと髪を切って、新しい流行のシューズを買うんだ」
「今のままじゃあ、だめですか」
「もちろん、もっともっと彼女にふさわしいランナーになるんだ」
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