〜私side〜

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〜私side〜

校庭を走る姿が好き。 黒板を見つめる横顔が好き。 名前を呼ぶと振り向く瞬間の表情が好き。 私の一日は彼で始まって彼で終わる。 付き合っているヒトが居ないって言っていたから思い切って「付き合って」と言ってみた。 断られても友達ポジはしっかり確保しようと思っていたらなんとビックリのOKだ。 学校での彼の隣は私の定位置になり、休日も一緒に過ごせて幸せだった。 毎日、好きだと伝えるけど彼はただ笑っているだけ、それでも気づかないふりをしていれば、私は彼の彼女でいられる。 彼の視線が時々遠くを見る。 その時は決まって目線の先にはあの子がいた。 隣のクラスの彼のお兄さんの彼女。 私からみても儚そうな美少女。 色白で血管が透けて見えそうなあの子に比べると、私はこんがり日に焼けてキャッキャと騒ぐ猿みたいだ。 友達の時は気がつかなかったけど“彼女”になって彼の隣にいるようになってふと気がつくと彼の目線はあの子にあった。 気がつかなければよかった。 だけど、女の勘はよく当たる。 待ち合わせの為に陸上部の部室に向かう。 先生に話があったから少し遅れると伝えていたが、思ったよりも話は早く終わった。 開いている窓から部室内の声が漏れる。 「お前ってアイツと付き合ってるんだっけ、趣味が変わりすぎじゃね?まぁさすがに兄ちゃんの彼女を略奪とか無理だもんな、だから真逆ので中和中?」 「別に、告白されたから」 「もしかして、告白順だったとか?ってやべっ」 窓の前を通過しようとして聞えてきた会話に固まってしまった私に気がついた部活仲間くんと目が合ってしまった。 気まずい空気が流れているし、今、彼が振り向いたら私は笑って「お疲れー」と言えそうもない。 「あー、先生に言い忘れた事があるから先に帰って」 返事を聞く前に走って逃げた。 分かっていた。 彼は私を好きなわけじゃなく、本当に告白順だったんだ。 あの子以外なら誰でもよかった。 分かっていた。 私だって最後の思い出に8月1日の花火大会に一緒に行ければよかった。 分かっていた。 たまたま告白順で“彼女枠”に入っただけ。 でも、今日のことで気まずくなったらきっと行けない。 行きたかったなー! 浴衣も下駄も用意したのに。 最後の花火大会なのに。 帰りは彼等に会わないように裏門から帰った。 明日から夏休みに入る。 誰かに見られたくないから、ホームの1番前で電車を待った。 告白なんかしなければ良かった。 彼の隣にいなければ、視線に気がつくことはなかったのに。 友達として花火大会に行って、連絡してね。 遊びにも来てよって言えたのに。 彼からラインの通知が来た。 【明日、部活の後に会える?】 別れ話かな? 会わないでいたら彼女のままでいられるかな? 【しばらく忙しい】 忙しいのは本当だ。 【わかった】 スマホの画面が滲んで見えない。 今までは寝る前に“おやすみ”とラインを送っていたけど今日は送れなかった。 そう言えば、ラインの始まりはいつも私で彼から来たのは初めてだった。 本当に告白順で私だけが彼を好きなんだ。 そりゃ、彼が私を好きになるなんて思ってなかったけど 本当に? ちょっとは期待したんじゃない? うん、ほんの少しだけ期待してた。 次の日もおやすみのラインを送らなかったら、朝に【おはよう】のスタンプが送られてきた。 ちょっと前なら舞い上がってたな。 【おはよう】のスタンプを返した。 動物の絵が描かれたたくさんの段ボール箱を前にぼんやりとしていると「全然、できてないじゃない」という母の声で我に帰った。 「果てしなくて面倒になっちゃった」 「つべこべ言わずにやりなさい」 「はーい」 夜はやっぱりラインは送らなかった。 夏休みに入ってから私からはラインをしていない、その代わり彼からおはようのメッセージがはいると私は鸚鵡返しに“おはよう”を返すだけだ。 もう、気持ちを残したくない。 そう思っていたのに彼から思いもしなかったメッセージが来た。 【花火大会行かない?】 【行きたい】 【じゃあ駅に6時】 【OK】 沈んでいた気持ちが一気に間欠泉のように噴き上がる。 その日の夜は久しぶりに【おやすみ】とラインを送った。 花火大会の日、待ち合わせの場所に行くとあの子を挟んで彼と彼のお兄さんが楽しそうに話をしていた。 すごい場違いな感じがする。 二人じゃななくてあの子がいたことにちょっとだけ残念な気持ちになる。 だって、お姫様を守る王子とその側近に見えるから。 あの子とお兄さんが二人で手を繋いで前を歩き、その後ろを二人並んで歩いている。 彼が手を差し伸べてくる、そっとその手に触れるとしっかりと握りしめてくれた。 「浴衣、かわいいね」 お世辞だとしても嬉しい。 花火を見終わったら、明日、東京に引越しをすることを伝えよう。 今まで付き合ってくれてありがとうと、これからは友達として連絡を取っていいか聞いてみよう。 そう思った時、彼の手が離れた。 前を歩いていたあの子がお兄さんとはぐれた様だった、手が離れた私はバランスを崩し石畳の上に膝と手がつき新しい白い浴衣の膝の辺りに血がついている。 膝を擦りむいてしまったみたいだが、膝よりも心が痛い。 手に持っていたはずのスマホが少し離れたところに落ちて数人に踏まれてしまい手に持った時はガラスは割れてもう電源も入らなくなっていた。 人の流れに逆らって浴衣も可愛く結った髪もボロボロになりながら駅にたどり着くと花火の音が聞こえる中一人で電車に乗った。 気がついたら手のひらも擦りむけて血が滲んでいた。もしかしたら、視界が滲んでそう見えるだけかもしれない。 あまりのボロボロな姿にお母さんは呆れていた。 さようなら 一応、彼女のままで花火の日を終えることができた。
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