181人が本棚に入れています
本棚に追加
〜彼side〜
俺の初恋は叶わなかった。
あの子は兄の彼女になったから。
兄に微笑みかけている色白で穏やかなあの子お姿を見ると胸がキリキリと痛んだ。
そんな時、彼女に告白された。
彼女といると楽しいし、いつも俺を好きだと言ってくれる。その言葉が気持ちが心地よくて彼女の好意に胡座をかいていた。
ついあの子を目で追ってしまうクセが治らない。
前はあの子を姿を見ると切ない気持ちになっていたのに、今は何も感じなくなった。
彼女の明るさに救われて惹かれているから。
周りくどいな、本当を言うとあの子とは正反対の健康的で明るくハキハキした彼女が好きだ。
俺はどうして素直じゃないんだろう、だからあの時きちんと答えることができなかったんだ。
部室で彼女のことを聞かれた時に、正直に彼女が好きだし可愛いって言えれば、気まずくならなかったのに。
部室でのやり取りの日から、毎晩送られてきた【おやすみ】のメッセージが来なくなった。
朝、【おはよう】と送っても【おはよう】と一言だけの返信があるのみだ。
今までは、俺を好きだというのが溢れていたのに今は二人の間にはアクリル板があって熱を感じることできなくなっている。兄に相談したら花火大会でWデートをしようと言うことになった。
待ち合わせ場所にやって来た彼女は白い浴衣と結い上げた髪型が似合っていて可愛かった。
手を繋いで歩いていると目の前を歩いていたはずの兄さんの姿が見えず、あの子が不安そうに周りをキョロキョロと見ていた。
咄嗟に彼女の手を離してあの子の元に向かうと、すぐに兄を見つけることができた。
改めて手を繋ごうと振り返ったら彼女はどこにも見当たらなかった。
携帯も繋がらず結局一人で花火を見た。
それから、毎日ラインや電話をしたけど繋がることは無かった。
どうして手を離してしまったんだろう。
どうして俺も好きだと答えなかったんだろう。
夏休み明けに聞かされたのは、彼女が東京に転校して行ったということだ。
あの時、先生に会っていたのは転校についての話だった。
そんな準備をしていたことも知らなかった。
違う、知ろうとしなかった。
隣に立ってさえ居れば彼女は愛情を返してくれると疑わなかったから俺から彼女に聞くこともしなかったから、待ち合わせ場所を伝えるとそこにきてくれたから家も知らない。
高校の転校は簡単ではないことを先生に聞いた。
結構前から準備をしていたんだ。
それも知らなかった。
彼女の親友に連絡が来たかどうかを聞いてみた。
花火大会の時に、手を離してしまったことを怒っているのかもしれない。
謝りたかった。
繋がりたかった。
彼女の友人から返ってきた言葉に胸を抉られた。
花火大会の時に転んだ拍子にスマホを落として壊れてしまい、番号も変わったと言うことだった.
手を離した後に、俺の彼女はあの人混みの中一人で転んでいたんだ。
俺があの子を追いかけた為に、大切な彼女を傷つけてしまった。
彼女の親友に連絡先を聞いたけど、彼女から誰にも教えないで欲しいと言われたということだ。
それならば、俺に連絡をしてもらえるようにお願いしたが、連絡が来ることは無かった。
本当に大切なものは失って初めて気がつくと言うけれど、本当だ。
あの日のことを謝りたくて住んでいた家を教えてもらいその住所に長い長い手紙を書いて送った。
どうか、この手紙が今彼女が住んでいる町に転送されますように。
季節が変わって俺は3年になった。
東京の大学を受験するつもりだ。
最初のコメントを投稿しよう!