私side

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私side

三年前の冬、家に帰ると机の上には94円切手の貼られた封筒が置かれていた。 表には“転送”の文字、そして裏には彼の名前が書かれていた。 着替えてから、夕食を食べてから、お風呂に入ってからと封を開ける事が出来ず、ずるずると時間だけが過ぎる。 どうして? 私が躊躇半端にしたから罪悪感があるとか? 親友から彼が連絡先を知りたがっていると聞いていたが、あの日の惨めな気持ちを思い出したくなくて、教えないで欲しいと伝えた。 親友はそれ以降は彼について触れることはなかった。 あの日の浴衣はクリーニング屋さんで染み抜きをしてくれたので綺麗になっているが、あの子の元に走っていく彼と転んで目の前には石畳と壊れたスマホをもつ自分の映像が何度も映像化されて頭の中で再生された。 ベッドに入ってからゆっくりと封を開けると、たくさんの便箋にイケメンの彼からは想像出来ないほど汚い字が並んでいた。 そうだ、彼は字が下手だったんだ。 思わず、ぷっと吹き出してしまった。 ブルーの無地の便箋には、付き合い始めた時のこと、毎日の“おやすみ”ラインのこと、部室でのこと、そして花火大会でのことが手書きで綴られ、私を傷つけてしまったこと、自分が気づくのかが遅かったことや、後悔の言葉が書かれていた。 [ちゃんと君に伝えるべきだった。後悔しても遅いかもしれない。今更だと思われるかもしれない、君は可愛くて明るくて素敵な人だから、もう彼がいるかもしれない。だけどどうしても知っていてもらいたかったんだ] そして、長い長い手紙の最後の一枚には 「好きです」 の文字だけが書かれていた。 涙がとめどなく流れた。
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