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文音さん
「何作ってるの?」
少し背の低い小柄な背中から手元を覗き込む。
「おいっ!見るなよ!」
少し照れながら俺を睨みつける背中を抱きしめたくなったが、これ以上ちょっかいを出しても本気で怒らせそうなので俺は大人しくキッチンのイスに腰掛けた。
黒い長ティーの袖を捲り上げ、必死な顔つきで文音が作っているのは“スイーツ”だと分かっている。
お互い休みの日は必ず作るから。
甘い物に目がない俺の為に、手を替え品を替え、男にしては細く長い指で器用に作るんだ。
「え!?何これ!?めっちゃくちゃキレイじゃん」
グラスの中に宝石を詰め込んだみたいなキラキラ光るゼリー。
青や紫、赤に黄色……。
終わったばかりの夏を思い出す。
「お前…この間、何もしてないのに夏が終わったーって騒いでたから……」
少し頬を赤く染めながら、何故か不貞腐れた様にポツリと呟く。
それが文音の照れ隠しだとちゃんと解っている。
いつも俺の他愛ない一言を聞いていてくれて、俺を気遣い愛情をそそいでくれる。
多少口は悪いけど…そこも可愛くて、照れ隠しで怒るのも愛しくて仕方ない。
そして今日も俺は手を伸ばして文音を引き寄せる。
「──やめろよッ」
すると、必ずそう言って睨み付けてくる。
これもいつもと一緒。
それでも抱きしめると俺の腕の中にすっぽりと納まり、顔を真っ赤にしてブツブツと文句を言っている。
いつもと変わらない休日。
だけど少しづつ増す愛情と幸せに浸りながら俺は文音に口付けた。
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