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料理人たちが感嘆の声をあげ、とろりとした中身を巨大ボウルのような桶に入れる。黄身は、黄色じゃなくて鮮やかな青。そして、少しだけ味見をしたら、ものすごく淡泊な味わいだった。
「ユウ様。こちらがサグの乳です」
サグというのは、こちらでたくさん飼われている動物で、主に乳を搾るのだという。初めて見たサグの乳は卵とは逆に、ものすごく濃厚だった。乳脂肪分たっぷりの生クリームだけって感じ。
そして、こちらの世界には砂糖がない。甘みの中で一番強いのは花の蜜で、他には樹液や果汁を煮詰めることが多い。今回は花の蜜を使うことにした。材料を混ぜ合わせ、少しずつ味を調整して器に入れる。オーブンはないから、大きな鍋に器と水を入れて、まずは蒸してみた。
「⋯⋯プリンじゃ、ない」
惨敗、と言う言葉が浮かんだ。
うまく火が通らなかったり、逆に固まりすぎたり、配合を変えて何回もやってみた。それでも、プリンとは違うものしかできない。砂糖がないからカラメルを作れないのもつらい。
目の前には水色の茶碗蒸しみたいな食べ物がいくつも並んでいる。やはり卵の味が薄くて甘みの感じも違う。
何よりも、見た目だ。視覚って大事なんだな。水色ってだけで俺の中ではプリンじゃなかった。
「ユウ様、何でも一度で出来るわけじゃありませんよ。材料も違いますし」
「これはこれで、味わい深いと思うぞ」
「うん。⋯⋯ありがと」
レトとジードが慰めてくれる。俺は、二人と厨房の料理人たちに礼を言った。貴重な時間と材料を使ってくれたことに感謝して、またお願いしますと頭を下げた。
「俺の世界の食べ物にはならなかったけど、どうしたらいいか、一から考えます。失敗した分は俺の食事にするので、持って帰っていいですか?」
そう言うと、皆、ぽかんとした顔をしている。通常、厨房から出た失敗作や残飯は家畜の餌にする。俺は形になっているものを厨房にあった籠に詰めた。
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