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「俺は食べるぞ」
「私も今夜、いただいていいですか」
ジードとレトがそう言って、厨房にあった籠に器を次々に詰めた。鼻の奥がツンとする。料理人たちに片づけを手伝うと言ったら、とんでもないと断られたので、今日はここまでと決めた。
自分の部屋に戻るために長い廊下を歩く間、ずっと黙りこくっていた。騎士棟に戻るはずのジードが部屋まで送ると言い、さりげなく歩幅を合わせてくれる。何か話そうと思っても言葉は浮かばなくて、手に持った籠がやけに重い。
部屋の前まで来て、ジードに、今日はありがとうと言おうと振り返った。ジードが俺を見て真剣な顔で言った。
「ユウ、大丈夫か?」
なんで? と明るく言おうと思ったら、ぼろ、っと涙がこぼれた。
「え? あれ?」
何だ、これ。おかしいだろ。泣きたいなんて思ってなかったのに。
一旦泣き始めたら、少しも涙は止まらなくて、幾らでも出てくる。ぼろぼろ泣き続ける俺の頭の上に、大きな手が置かれた。まるで小さな子を慰めるみたいに、よしよしと撫でてくる。撫でられれば撫でられるほど、涙は止まらない。
大丈夫じゃない。本当は、そう言いたかった。
頭の中では、食材も環境も違うんだから、失敗して当たり前。何回でもやり直せばいいと思っていた。でも、出来なかったことは想像以上にショックだった。元の世界の材料を思い出して、普通の鶏の卵があれば、砂糖があればと、どうにもならないことを思う自分が嫌だった。
「プ、プリンは、得意なスイーツ⋯⋯なんだ。⋯⋯何回も作ってて、失敗なんて、ずっと⋯⋯、したことなくて。父さん、たちは硬めのが好きで、姉さん⋯⋯たちは、とろとろ⋯⋯が、好きだ」
好みに合わせて作れば、みんなが喜んでくれた。だから。
「ほん⋯⋯とは、こっちの、人にも、食べて⋯⋯ほし、くて」
失敗作でも捨ててしまったら、もっと惨めになるような気がした。
ジードは、黙ったまま、ずっと頭を撫でてくれた。涙はきっと、プリンもどきの上にも落ちている。しょっぱくなるなあ、なんて思って、また泣けた。
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