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「これは、ユウの大事な食べ物なんだな」
「⋯⋯うん」
ああ、そうか。プリンを作ろうと思ったのは、作れそうだったからだけじゃない。俺が、作りたかったんだ。俺の世界の、大事なもの。大事な人たちが喜んでくれたものだから。
ジードの右手が、俺の肩を抱き寄せた。左手にはたくさんのプリンもどきが入った籠を持っている。失敗作の大半はジードが引き受けてくれたのだ。
俺が泣き止むまで、ジードはずっと背を撫でていた。俺よりずっと背の高い騎士が、身を屈めて黙って付き合ってくれる。手の平から伝わる優しい温もりが、何よりも俺の心を温めた。
翌日は、予想通り目が腫れていた。濡らした布で目を冷やしていると、レトは俺を見て微笑む。
「また違う方法を考えましょう。ユウ様は頑張りましたよ」
「⋯⋯ありがと。ジードも、たくさん慰めてくれたんだ。迷惑かけちゃったな」
「それは、まあ。⋯⋯役得でしたね」
最後の方は、小さな声でよく聞こえなかった。今日会ったら、真っ先に謝っておこう。
俺は午前の勉強を早めに切り上げて、騎士棟に向かった。王宮とは、渡り廊下のようなもので繋がっている。騎士棟に向かうほど、体の大きな人が多くなる。騎士棟の入り口の大きな扉を見て立ち止まり、中まで行くかどうか悩んだ。
若い騎士たちがぞろぞろと出てきたかと思うと、俺を見て口笛を吹く。
「ねえ、こんなところで何してんの」
「さっきから、ここでうろうろしてるけど、誰か探してる?」
「俺たちが一緒に探してあげようか?」
ちゃんと言わなきゃ、と思うのに声が出なかった。相手がデカいってのは無意識に怖いことを、こっちに来て初めて知った。
「おい、何してんだ!」
怒りに満ちた声が響き渡る。
「ジード!」
「ユウ! 何でこっちまで来たんだ?」
ジードは、騎士たちと俺の間に割り込むようにして入ると、ぐいぐいと俺の手を引いて、王宮に向かって歩き出した。
「ユウ?」
「え? じゃあ、あの子、異世界の客人?」
後ろで騎士たちの話し声がする。
すぐ隣を見れば、見たこともないほど険しいジードの横顔があった。
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