3.プリンと失敗

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「これは、ユウの大事な食べ物なんだな」 「⋯⋯うん」  ああ、そうか。プリンを作ろうと思ったのは、作れそうだったからだけじゃない。俺が、作りたかったんだ。俺の世界の、大事なもの。大事な人たちが喜んでくれたものだから。    ジードの右手が、俺の肩を抱き寄せた。左手にはたくさんのプリンもどきが入った籠を持っている。失敗作の大半はジードが引き受けてくれたのだ。  俺が泣き止むまで、ジードはずっと背を撫でていた。俺よりずっと背の高い騎士が、身を屈めて黙って付き合ってくれる。手の平から伝わる優しい温もりが、何よりも俺の心を温めた。  翌日は、予想通り目が腫れていた。濡らした布で目を冷やしていると、レトは俺を見て微笑む。 「また違う方法を考えましょう。ユウ様は頑張りましたよ」 「⋯⋯ありがと。ジードも、たくさん慰めてくれたんだ。迷惑かけちゃったな」 「それは、まあ。⋯⋯役得でしたね」  最後の方は、小さな声でよく聞こえなかった。今日会ったら、真っ先に謝っておこう。  俺は午前の勉強を早めに切り上げて、騎士棟に向かった。王宮とは、渡り廊下のようなもので繋がっている。騎士棟に向かうほど、体の大きな人が多くなる。騎士棟の入り口の大きな扉を見て立ち止まり、中まで行くかどうか悩んだ。  若い騎士たちがぞろぞろと出てきたかと思うと、俺を見て口笛を吹く。 「ねえ、こんなところで何してんの」 「さっきから、ここでうろうろしてるけど、誰か探してる?」 「俺たちが一緒に探してあげようか?」  ちゃんと言わなきゃ、と思うのに声が出なかった。相手がデカいってのは無意識に怖いことを、こっちに来て初めて知った。 「おい、何してんだ!」  怒りに満ちた声が響き渡る。 「ジード!」 「ユウ! 何でこっちまで来たんだ?」  ジードは、騎士たちと俺の間に割り込むようにして入ると、ぐいぐいと俺の手を引いて、王宮に向かって歩き出した。 「ユウ?」 「え? じゃあ、あの子、異世界の客人?」  後ろで騎士たちの話し声がする。  すぐ隣を見れば、見たこともないほど険しいジードの横顔があった。
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