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ものすごく、感動した。俺の人生の中でこんなに心のこもった言葉を聞いたことがあっただろうか。
じっと見つめていたら、ジードが目を逸らした。
「騎士は結構、気が荒い奴が多いんだ。異世界人だなんて聞いたら、余計な興味を示すかもしれない。用心してほしい」
「そうか。俺、こっちでは小柄だし、絡まれても反撃できないもんな」
「そうだ! そんな細くて華奢な体で目を付けられたらひとたまりもない!」
「うん? まあ、ちょっと押されただけで転がりそうだな⋯⋯」
「⋯⋯押し倒される可能性は、十分ある」
どんどんジードの表情が険しくなる。
心配してくれてるんだな。騎士も色々なんだろうけど、ジードは人情に厚い方だと思う。
「わかった、今度から騎士棟に気軽に行くのはやめる」
「そうしてくれ、気が気じゃない」
俺が頷くと、ジードは安心したように、にっこり笑った。
プリンの失敗から、俺は作りたいものよりも、作れるものを真剣に考え始めた。
『いいか。あきらめないことと同じぐらい大事なことがある。限られた時間の中で、出来ないことは出来ないと、すっぱりあきらめることだ』
竹を割ったような性格の、家政部の先輩の言葉を思い出す。ずばずば物を言うけれど、面倒見のいい人だった。あの日の言葉が、今ではとてもよくわかる。
料理本の解読が進むにつれ、元の世界の暮らしのありがたさを痛感した。
「ジードにはあんなこと言ったけど、冷蔵庫とオーブンが欲しいよ⋯⋯」
「ユウ様。先日から仰っているそれですが、魔石で冷却と過熱ならできますよ!」
「温度が大事なんだ。どちらも、一定に保ちたい」
「固定もできるかと思いますが、魔石を使った道具をお求めなら担当部署に聞いたほうがいいですね」
レトは、俺の言葉を手元に幾つも書きつけた。文字の翻訳だけでなく、話を聞いて次々に必要なことをまとめてくれる。とても優秀な人だとわかるのに、俺にずっと付き合ってもらっていてもいいんだろうか。
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