5.招待と砂糖

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 思わず、ひっ!と声が出た。  魔獣にはここに来た時にしか会っていないけれど、あんなのがぞろぞろ寄ってくるなんて。 「⋯⋯いい。他の方法を探す」  スイーツへの道は、なんて遠くて険しいんだ。  お腹いっぱい料理を食べた後は、特別に厨房に入らせてもらった。  公爵家の料理人たちに礼を言うと、みんな驚いて目を見開いている。こちらでは、主人の客が料理人に直接声をかけることは、滅多にないらしい。  スフェンは約束通り、夕食に使った材料を見せるよう、料理人に指示を出した。  大半はよくわからない食材だったが、市場で簡単に手に入るものを教えてもらった。  穀物は多く栽培されているから安価だし、果実もロワグロは無理だが、今の時期に出回っている種類がたくさんある。  レトに解読してもらったレシピからいくつか質問すると、料理人たちは真剣に答えてくれた。帰りの馬車に乗るまで、俺はずっと興奮し続けだった。 「スフェン、本当にありがとう! 今度、何か礼をするから」 「どういたしまして。⋯⋯じゃあ、今がいいな。遠慮なくもらってもいいかな?」 「今? 俺にできることなら」  スフェンは、聞くが早いか、俺の顎に手をかけた。顔が近づいたかと思うと、唇に一瞬、柔らかなものが触れる。びっくりしているうちに、スフェンはさっと体を離した。いつのまにかジードが俺の前に出て、分厚い壁になっている。 「おっと、これはユウからの申し出だからな」  スフェンはジードと目を合わせずに、満面の笑顔で俺を見た。 「おやすみ、ユウ。今夜はいい夜だった」 「あ、うん。⋯⋯おやすみ」  帰りの馬車の中は、とてもとても静かだった。 「こっちの習慣には、なかなか慣れないな」 「⋯⋯」  ぽつりと呟いた俺の言葉に答えはない。ジードの機嫌はいつまでも、超絶に悪いままだった。
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