1390人が本棚に入れています
本棚に追加
市場に向かう日、レトが俺に一人の騎士を紹介した。
「第一騎士団第一部隊所属、エリク・ザウアーです。本日はユウ様の護衛を仰せつかり、光栄の極みです」
綺麗な敬礼に、俺は思わず口を開けてしまった。この世界に来て、黒髪に黒い瞳の騎士を見たのは初めてだった。体格も顔立ちも全然違うのに、なんだか身近に感じてしまう。特に瞳を見て、誰かに似ていると思った。⋯⋯ああ、そうか。長い睫毛に縁どられた、つり目気味の大きな瞳は、懐かしい人を思い出す。
「今日は、わざわざありがとうございます。俺のことはユウと呼んでください。俺も、エリクと呼んでいいですか?」
「はい、ユウ様! 感激です。誠心誠意、務めさせていただきます!」
俺たちは早速、市場に向かった。
エリクは王都を警備する部隊の所属だから、市場は庭のようなものだった。俺の希望を聞き、レトと一緒に安全な経路を事前に考えてくれていた。
「安いよ、安いよ!」
「入ったばかりの上物だよ! さあ、味見してって!」
威勢のいい掛け声と共に、露店や屋台がどこまでも続いている。威勢のよさに圧倒されてきょろきょろしてしまう。
「ユウ様、お気をつけて。迷子になりますよー!」
いけない、いけない。今日は果物や蜜を手に入れたくて来たのだ。
公爵家の料理人たちは、高価なものじゃなくても旬のものは栄養があって美味しいと言った。俺たちの世界とそこは変わらない。教えてもらった果物の名前を一つずつ確かめながら、少しずつ購入した。レトやエリクも、自分たちの好きなものを勧めてくれる。
エリクは、少し話しただけで誠実な人柄だとわかった。俺が自分の希望を上手く話せなくても、急かすことなく、じっくり耳を傾けてくれる。
強引な客引きを見れば、さりげなくすっと前に出る。相手は顔色を変えて逃げて行った。
「エリクって、すごいんだな」
「人々がすごいと思っているのは、この飾りの方ですよ」
最初のコメントを投稿しよう!