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にこ、と笑って、自分の胸に光る二つのバッジを示す。それが部隊章と階級章だとはわかっても、どのくらいすごいのかはよくわからなかった。
市場の片隅に置かれたベンチに座って、俺たちは休憩した。少し回っただけで、両手が食材でいっぱいになっている。
「もう少し見て回りますか?」
「これ以上は、買いすぎになっちゃうかなあ⋯⋯」
「ふふ。それでしたら、また次にしましょうか? いつでもお供しますから」
エリクの笑った顔を見ると、俺は眩しいものを見るような、切ない気持ちになる。
「⋯⋯エリクはさ、俺の好きだった人にちょっと似てるんだ。もうとっくに振られたんだけど」
「ユウ様⋯⋯」
「すごく優しくて、綺麗な絵を描く人なんだ。少しでも自分の方を見てほしかったけど、無理だったなあ」
「ユウ様を振るなんて⋯⋯! 先方にはお相手がいらしたのですか?」
なぜかレトが、エリクの隣で憤慨している。
「うん。神が相手だったからさ。俺じゃあ、全然太刀打ちできなかった」
「何と! 神が⋯⋯!」
「俺の世界には、神様がたくさんいるんだよ」
レトもエリクも目を潤ませている。どうやらいたく同情されているようだ。そう、俺の好きだった先輩には、両思いの相手がいた。無口でイケメンで、神と言われるほど指先の器用な男が。
ため息をついて屋台に目を向けた時、大柄な騎士の背中が目に入った。それは、いつも見慣れた背中だった。隣には、ちょうど俺と同じ位の背の女性が立っている。
「おや、あれはジード様では?」
「うん、ジードだと思う。隣は⋯⋯」
「ソノワ伯爵令嬢ではないでしょうか、許嫁の」
──ドクン、と胸が大きく鳴った。
「許嫁?」
俺の言葉に、エリクが屋台に視線を向けたまま頷く。
「はい。二人の実家のソノワ家とセンブルク家は昔から懇意の間柄です。婚約を結んだのもずいぶん幼い頃だったと聞いています。第三騎士団が辺境に行く前に、共に過ごす時間を取ったのでしょう」
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