1390人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はジードと令嬢を見た。連れ立って歩く二人はとても仲がよさそうだった。令嬢は波打つ銀の髪を耳の上で編みこんで、後ろで一つに結び、花の飾りで留めている。こちらの世界の女性としてはかなり細身だ。
露店の一角には装飾品を並べている店々がある。二人は台の上を覗き込み、顔を寄せあった。令嬢が指さしたものを見てジードが頷く。屋台の主人は小さな包みをジードに渡し、包みはすぐに令嬢の手に渡った。二人は見つめ合って微笑んでいる。
エリクがへえ、と感心したように言う。
「魔獣ばかり相手にしていると評判のセンブルクも、許嫁にはやはり贈り物をするんですね」
「⋯⋯そう、だな」
俺は何と答えていいかわからなかった。ジードと令嬢から目を離しても、二人が微笑んで見つめ合う姿が目の奥に焼きついていた。
「レト、結構買い物をしたから、もう帰ろうか。色々まとめたいこともあるし」
そう言いながら、ふらりと立ちあがった時だった。
屋台の方から悲鳴が上がった。
「泥棒ッ」
「返して!」
数人の男たちがこちらに向かって走ってくる。
屋台の方を見れば、ジードは令嬢を胸に抱くようにして道端に立っていた。
──いつもなら、ジードは真っ先に賊を取り押さえるはずなのに。
大きな体は、令嬢だけを守っている。
「ユウ様、こちらに!」
はっとした時には、レトが俺の体を引いて、自分の背に隠した。
エリクがすぐさま前に出る。
一人の腹に拳を叩きこみ、一人には足払いをくらわせて倒れたところに背を踏みつけた。殴りかかってきた男の腕を取って逆に投げ飛ばす。あっという間に三人の男たちが地面に伸びて、ばたばたと大勢の人が走ってくる。
物を取られた店主や買い物客と共に、第一部隊の騎士たちが駆けつけた。エリクが事情を説明している間、レトは俺の肩をしっかりと支えてくれた。俺たちの周りを取り囲むようにして、いつのまにか人だかりが出来ている。
「──ユウ?」
名を呼ばれた気がして視線を向ければ、碧の瞳が、大きく見開かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!