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7.決心と牽制
碧の瞳と確かに目が合った。でも、俺はその瞳からすぐに目を逸らした。
気がつかなかった振りをして、傍らのレトに話しかける。
「レト、王宮に帰ろう」
「ユウ様?」
「今日はもう十分だよ。──エリク!」
俺は、辺りに聞こえるように声を張り上げた。騎士たちと話していたエリクは、すぐに走って戻ってくる。
「お待たせして申し訳ありません、ユウ様」
「ごめん、エリク。まだ時間かかる? ちょっとびっくりして⋯⋯。もう王宮に戻りたいんだ」
「承知しました。後は団の者たちが片付けますので問題ありません」
エリクが驚かせたことを詫びてくれる。俺は素直に頷いて、歩き出した。
第一騎士団の騎士たちが、集まった人々に解散するよう大声で告げていた。揉めあう声が響いている。
「ユウ!」
もう一度、名を呼ばれたような気がした。それでも、俺はもう振り向かなかった。
「エリク、今日は本当にありがとう。出かける時は、また頼んでもいい?」
「いつでもお申しつけください。すぐに参ります」
王宮に送り届けてもらった礼を言えば、穏やかな笑顔が返ってきた。眩しいような切ないような気持ちがよみがえる。
昼を少し回ったところだったけれど、少しも食欲はわかない。レトに、午後の勉強は休んで眠りたいと言えば、すぐに了承された。
「もちろんですよ。外でお疲れになったでしょう。食堂で簡単に食べられるものを作ってもらいます」
「ありがとう、レト。頼みがあるんだ」
「何です?」
「ゆっくり寝たいから、食事は部屋のテーブルに置いといてくれる? 後はもう全部、明日にする!」
笑顔で言えば、レトは眉を下げて微笑んだ。
今日購入したものを片付けておきますね、と言われてほっとする。寝室の扉を閉めた途端、力が抜けた。
「⋯⋯ッ」
ベッドまでなんとか歩いて行って、体を投げ出す。市場で見たジードの姿が、頭から離れない。
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