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⋯⋯何だよ。好きな人、いたんだ。教えてくれればいいのに。許嫁って、すごいな。聞いたことねーよ。さすが貴族。
いつも魔獣倒す話ばっかりしてたけど、プレゼント選んだりもするんだな。ちゃんと女の人を守って、本当に騎士!って感じだった。こっちの女の人って俺より強そうって思ってたけど、あんなに華奢な人もいるんだな。
『ユウは細いからな。もっと食べないと⋯⋯』
──⋯⋯ああ、そうか。
やけに心配してくれると思ったけど、そういうことだったんだ。
あれは、俺だけを心配してたわけじゃない。俺とあの人、あんまり変わらない体形だったもんな。
「あーあ。俺って、ほんと⋯⋯。ダメだ⋯⋯」
相手が言わないからって、気がつかないことばっかりだ。
ジードがずっと親切にしてくれてたから勘違いしてた。こっちの人は皆、俺よりデカいし異世界人を大事にしてくれる。すっかり甘えて、自分が守られるのが当たり前になってた。
ジードは、騎士だ。魔獣に襲われたやつがいたら助けるし、気にかけもする。俺が特別なわけじゃない。それに、やっぱり騎士はお姫様を守るのが似合ってる。
『⋯⋯第三騎士団が辺境に行く前に、共に過ごす時間を取ったのでしょう』
エリクの言葉が、耳の奥に響く。あんなに忙しそうなのに、許嫁とは休みを取ってまで会ってるんだもんな。二人とも、すごく楽しそうだった。
「ジードに頼ってばかりじゃだめだ⋯⋯」
そう呟いた途端、ずきん、と胸の奥が痛んだ。
──何なんだよ、これ。⋯⋯何でこんなに、ずきずきするんだよ。
目が覚めた時には、夜になっていた。
思ったよりもずっと、ぐっすり眠っていたみたいだ。起き上がるとぐーっと腹が鳴った。何があっても、腹は減る。寝室の隣の部屋に行くと、テーブルの上に皿が置いてあった。パンに肉をこんがり焼いたものとピクルスみたいな野菜が入っている。お茶も添えられていた。そして、コップには小さな花。家で母親が時々飾っていたのを思い出す。
『花って、いいものよ。元気をくれるの。──ああ、自分は元気がなかったんだなって、逆に教えてくれるのよ』
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