7.決心と牽制

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   家で聞いた時は、ふーん、って思っただけだったけど。  パンにがぶりとかぶりつけば、目の端で白い花が揺れる。見ていると段々、心の痛みが解れていく気がした。  異世界に来て、母親の言葉を噛み締めるなんて思わなかった。  翌日。  俺はいつもより早く起きた。大きく一つ、深呼吸をする。  ──自分の力で、歩いていけるようにならないと。  レトと一緒に、昨日買ってきた果物を並べた。大きいの、小さいの、つるつるしてるの、ごつごつしてるの。中にはギラギラした爬虫類の鱗みたいなのがびっしりついてるのもあって、全然食べ物に見えない。レトがギラギラを見て、満面の笑みを浮かべる。 「これはスロゥと言いますが、ものすごくおいしいんですよー! 大好き!」 「そ、うなんだ。なんか、目に刺さりそうなぐらいギラギラしてるけど、大丈夫?」 「この輝きが強いほど新鮮なんですよー! 今の時期しか()れないんですから」  レトは、俺がひるんでいたら、まずは食べましょ! と強く勧めてきた。野球ボール位の大きさの実は硬い。レトの真似をして鱗のような皮をナイフで少しずつ剥いていく。予想に反して、中身はほんのりピンクがかった真珠色だった。八等分にして口に入れると、口の中に瑞々しい甘みが広がり、するりとのどを通っていく。 「うっ⋯⋯ま!」 「ふふふ。そうでしょう、そうでしょう! 市場でも大人気なんですよ。長くはもちませんけど、今の時期はたくさん穫れて値段も安いですしね」 「ロワグロみたいに甘くて美味しくても、高かったら、そうそう食べられないもんな」  スフェンの公爵家で出された高級果実を思い出す。 「ロワグロ! 庶民には簡単に口に出来るものじゃありませんね。まさに、貴族の食べ物!」  料理に使うなら、安くて簡単に手に入るものがいい。このスロゥみたいな。  コンコン、と扉を叩く音がする。レトが出て行くと、ひょいと顔を覗かせたのはエリクだった。 「ユウ様、お加減いかがですか? あ、お仕事中でしたか?」 「大丈夫だよ。今ちょうど、昨日買ってきた果物の味見をしてたところ!」
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