1.イケメンと魔獣

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 ⋯⋯なに、これ。  穴だと思ったのは、口だったようだ。頭上2メートル位のところに、巨大な太い蛇のように白くうねるものが、ばくりと口を開けていた。ぎざぎざの歯が円周上に細かく並んでいて、中央から細長い舌のようなものがにゅるにゅると伸びてくる。衝撃で立ち尽くしたまま眺めていると、体を強い力でぐっと引き寄せられ、次の瞬間、思い切り地面に放り投げられた。 「⋯⋯いってぇ」  草の上だったとはいえ、力任せに投げつけられれば痛い。何とか起き上がって振り返れば、先ほどの男が白い生き物の体を、剣で真っ二つに薙ぎ払ったところだった。 「すご! 本物の騎士みたい!!」  そう思ったのは一瞬で、俺は脳天を突き抜けるような腐臭に総毛だった。先ほどの生き物の体液が盛大に辺りに飛び、切り離された体がびくびくと地面に蠢く。だめだ。もはやキャパオーバーだ。そこで意識はぷつりと途切れた。  目覚めた時には、広い部屋のベッドに寝ていた。  俺の隣で椅子に座っていたイケメンは、目を開けた俺を見てぱっと顔を輝かせた。彼が部屋を出て行って少したつと、何人もの人が入ってくる。  イケメンに負けず劣らずの中世ヨーロッパ風コスプレ御一行という顔ぶれだ。その中では比較的地味な格好の一人が、人々に一礼して前に出る。俺の隣にやってきて、ずいと四角い箱を差し出した。男が言葉を発した途端、箱が銀色に光った。 「ようこそ、異世界からの客人(まろうど)」  耳に入って来たのは、確かに俺の聞きなれた言葉で、日本語だった。  あれから、3か月が経った。  元いた世界と時間の流れが同じなのかはわからない。制服の胸ポケットに、たまたま入れていた生徒手帳にはカレンダーが付いている。こちらに来る前は見もしなかったそれに、俺は一日の終わりに〇をつけていく。  朝起きて、この世界のことを知って、夜眠る。それが今の俺の一日だ。この世界は元居た世界によく似ていたけれど、俺の世界に魔獣なんてものはいない。
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