1380人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
⋯⋯なに、これ。
穴だと思ったのは、口だったようだ。頭上2メートル位のところに、巨大な太い蛇のように白くうねるものが、ばくりと口を開けていた。ぎざぎざの歯が円周上に細かく並んでいて、中央から細長い舌のようなものがにゅるにゅると伸びてくる。衝撃で立ち尽くしたまま眺めていると、体を強い力でぐっと引き寄せられ、次の瞬間、思い切り地面に放り投げられた。
「⋯⋯いってぇ」
草の上だったとはいえ、力任せに投げつけられれば痛い。何とか起き上がって振り返れば、先ほどの男が白い生き物の体を、剣で真っ二つに薙ぎ払ったところだった。
「すご! 本物の騎士みたい!!」
そう思ったのは一瞬で、俺は脳天を突き抜けるような腐臭に総毛だった。先ほどの生き物の体液が盛大に辺りに飛び、切り離された体がびくびくと地面に蠢く。だめだ。もはやキャパオーバーだ。そこで意識はぷつりと途切れた。
目覚めた時には、広い部屋のベッドに寝ていた。
俺の隣で椅子に座っていたイケメンは、目を開けた俺を見てぱっと顔を輝かせた。彼が部屋を出て行って少したつと、何人もの人が入ってくる。
イケメンに負けず劣らずの中世ヨーロッパ風コスプレ御一行という顔ぶれだ。その中では比較的地味な格好の一人が、人々に一礼して前に出る。俺の隣にやってきて、ずいと四角い箱を差し出した。男が言葉を発した途端、箱が銀色に光った。
「ようこそ、異世界からの客人」
耳に入って来たのは、確かに俺の聞きなれた言葉で、日本語だった。
あれから、3か月が経った。
元いた世界と時間の流れが同じなのかはわからない。制服の胸ポケットに、たまたま入れていた生徒手帳にはカレンダーが付いている。こちらに来る前は見もしなかったそれに、俺は一日の終わりに〇をつけていく。
朝起きて、この世界のことを知って、夜眠る。それが今の俺の一日だ。この世界は元居た世界によく似ていたけれど、俺の世界に魔獣なんてものはいない。
最初のコメントを投稿しよう!