1390人が本棚に入れています
本棚に追加
8.仲違いと後悔
「エリク。大体、ジードが他の騎士を牽制する理由がないよ」
「⋯⋯ユウ様は十分、魅力的な方ですよ。ご自分のことはわからないものかもしれませんが」
エリクの声音は穏やかだが、言われたことは信じがたかった。こちらに来てから声をかけられたことは何度もあるが、どれも異世界人へのもの珍しさからだとしか思えない。
「俺のこと、真剣に心配してくれる人はレトやジードぐらいなんだよ。だから!」
頼む、という気持ちだった。ずっと親切にしてくれた友達に迷惑はかけたくない。エリクは何か言いたそうな顔をしていたけれど、黙って頷いてくれた。
「わかりました。今回は何も申し上げずにおきましょう。でも、私もユウ様のことを心配しています。何かあったら、いつでも仰ってください」
「⋯⋯ありがとう」
エリクの言葉に、緊張が一気に解けていく。ほっと胸を撫でおろした時には、すぐ近くに人が立っていた。
「ユウ? こんなところで、何を⋯⋯」
「ジード!」
今まさに話していた相手が登場して、俺はうろたえた。騎士棟から繋がる渡り廊下を歩いてきたジードは、おそらく俺たちと昼食をとろうと思ったのだろう。わずかに眉を寄せ、口を引き結んでいた。まるで挑むような瞳をしている。
ジードの視線は、ただ一点に向かっていた。そう、俺がエリクの手をしっかり握っているところに。
「あれ? わ、わわっ!」
慌てて手を離そうとすれば、なぜかエリクはぎゅっと力を籠めて、強く握り返してくる。
「ユウ様、今日はとても楽しかったですよ。また是非、お声がけください」
「あ、うん、こちらこそ。突然誘ったのに付き合ってくれて、ありがとう」
エリクがジードに目を向ければ、ジードは素早く脇に退いて礼をする。それに軽く視線だけ返すと、エリクは騎士棟に向かって歩き出した。後に残されたのは、俺たち二人だけだ。今まで感じたこともないほど、俺たちの間には、気まずい空気が漂っていた。
最初のコメントを投稿しよう!