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「⋯⋯誘ったって」
「え?」
「ザウアー第一部隊長を何に誘ったって言うんだ?」
妙に険のある言い方に戸惑いながら、部隊長、という言葉に驚く。それって役職付きなんじゃないのか。そんな人に市場の買い物や試食まで付き合わせてよかったんだろうか。
「エリクが部隊長だなんて知らなかった。昨日買った果物の試食に付き合ってもらったんだよ。市場に出かける時に護衛を頼んだんだけど、すごくいい人だな」
突然、ぐいと手が引かれた。
「ユウ、話がある」
ジードの強い眼差しに思わずうなずいて、一緒に騎士棟の渡り廊下に向かう。渡り廊下からは、すぐに外の庭園に出ることが出来た。
眩しい日差しに一瞬目が眩みながら、王宮の庭園をどんどん歩いていく。ジードは黙ったまま、歩調を緩めない。木々が太陽を遮り芝生が広がる場所まで来た時、俺はジードを止めた。
「ジード、どこまで行くんだ。話なら、ここでもできるだろう」
何も言わないジードに、何だかイライラする。俺は木を背にして芝生に座り込んだ。ジードも、俺の隣に腰を下ろした。
柔らかな風がふわりと金髪を揺らす。ちらりと横顔を見れば、眉を顰めていてもやっぱりイケメンだなあと思う。睫毛だってあんなに長いんだもんな。視線が合うと、ジードが低い声で聞いてくる。
「昨日、市場で盗人が出て、人だかりの中にユウがいたからびっくりした。市場にユウが出かけるなんて全然知らなかったから驚いたんだ」
ジードは言葉を続けようかどうしようかと迷っているようだった。それでも、ゆっくりと口を開く。
「ユウ、どうして護衛の話を言ってくれなかったんだ。それに、何故あの時、俺のことを無視した?」
「えっ」
「⋯⋯ユウは、人込みの中で俺のことがわかっただろう? 気のせいだとは思えない。はっきりと目を逸らしたのはどうしてなのか、一日中気になっていた。最近あまりゆっくり話すこともできなくて、俺は何かユウが嫌がるような⋯⋯、気に入らないことをしたのかと心配なんだ」
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