1.イケメンと魔獣

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 俺は今、王宮に保護されている。  この世界には、時折、と呼ばれる振動と共に異世界から人や物が現れる。どうしてそんなことが起きるかは担当部署で日々、原因究明に励んでいるそうだ。今、わかっているのは二つ。それぞれの世界は隣り合って存在する。揺れが起きると、互いの世界に存在するものが行き来することがある。  俺が知りたいのは一つだけ。元の世界に帰れるのか、だ。 「帰れるとも帰れないとも言えません。揺れで現れた者は揺れで戻る、との言い伝えはありますが、そもそも客人が少ないのです。ただ、以前現れた客人は、多くの技術を授けてくださったと文献に残っています。他国では魔術師が客人の帰還術を行う国もあります」 「じゃあ、そこに行けばいいのか?」 「うーん、客人は、現れた場所が一番元の世界に戻りやすいと言われています。帰還術を使うなら、魔術師に来てもらう方が確実です。ただ⋯⋯」 「ただ?」 「途方もなく高額です」  俺は机に顔を伏せた。⋯⋯無理だ、金なんか財布にあった1500円しかない。この世界では何の役にも立たないし、ここに来たばかりで金の稼ぎ方も知らないのだ。そもそも会話だって、貸し出された高性能な小型翻訳機がなければ成り立たない。  せめてもの救いは、俺が揺れと共にやってきた国は、異世界人に優しい国だったことだ。王宮で保護してくれるし、専属の教師をつけてくれる。この教師とは、勉強を教えるのではなく、世界の成り立ちや生活の仕方について教えるのだ。実践的で助かる。俺の教師は、レトと言う物腰の柔らかな男性だった。  午前の授業を終えて、昼食の時間になった。  レトと共に部屋を出て、食堂に向かう。最初の頃は自室で食べていたが、ここの暮らしに慣れるためにも王宮職員たちの食堂を最近は使っている。 「ユウ!」 「ジード」 「今から昼食だろう。一緒に食べよう」 「⋯⋯毎日毎日、騎士棟から来られるとは、かいがいしいことですね」
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