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「あ、スフェン様」
「嫌だなあ、ユウ。スフェンでいいって言ったじゃないか。おや、ジード」
「久しぶりだな、スフェン」
俺が目を瞠れば、二人から同時に、同級生なんだ、と声が返ってきた。
「ユウは、どうしてスフェンを知っているんだ?」
「スフェン⋯⋯には、本を借りているんだ」
輝くような笑顔の若者は公爵家の令息だ。俺はとある本が見たくて、王宮の書庫に入る許可を取り付けた。しかし、書庫でも目当てのものは見当たらない。司書長に相談すれば、南に広大な領地を有する公爵家の話をしてくれた。代々美食家で、領地からはたくさんの穀物がとれる。公爵家の書庫には料理のレシピを集めた本があると言う。
「丁度、公爵家の御令息が王宮勤めをしております。ご紹介致しましょうか?」
一も二もなく、司書長の言葉に飛びついた。
スフェンは公爵家の三男で、いかにも育ちのよさそうなお坊ちゃんだった。恐る恐る話しかけると、満面の笑顔で話を聞いてくれる。スフェンが気前よく実家から取り寄せてくれたおかげで、俺は貴重な料理本を借りることが出来たのだ。
「ユウの頼みなら、いくらでも聞こう」
「ほんと? めちゃくちゃ助かる。この世界の穀物を実際に見てみたいんだ」
「ああ、それなら仕事の後にでも、ゆっくり話をしないか? 何なら今夜、夕食を一緒にどうかな?」
「ありがとう。でも今日は、調べたいことがあるから」
「⋯⋯残念だな。また今度、誘ってもいいだろうか」
「うん。楽しみにしてる」
正直、本の内容だけではわからないことだらけだ。レトに読んでもらっても、イメージさえわかないものもある。何よりも、まずは実物を目にしたい。
王宮中に、大聖堂の鐘の音が響き渡った。もう、昼休みは終了だ。
「それじゃあ、ユウ。また次の機会に」
スフェンは俺の手を取って、甲に軽く口づけをした。ぞわわ、っと背に何かが走り、全身に鳥肌がたった。思わず振り払いたいところを必死で抑える。
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