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⋯⋯だから、そういうのは男じゃなくて、きれいなお姫様相手にやるんじゃないのかよ。確かに、こっちの世界の男から見たら、俺の手でも華奢に見えるのかもしれないけどな!
こちらに来て少し経った時に、手の甲だろうが頬だろうが、キスは男女関係なく挨拶の一つだと聞いたけれど、ちっとも慣れやしない。
俺の心の内も知らず、にこりと笑って公爵令息が去っていく。鳥肌は少しずつ治まってきたが、体が寒気でぶるりと震えた。さて、俺も午後の勉強、と振り向くと、ジードの突き刺すような瞳があった。
「⋯⋯スフェンと一緒に夕食?」
「え? うん、前から誘われてて」
「ユウ。あいつはだめだ! 絶対にダメだ。一人で夕食に行くなんて食われにいくようなもんだ!」
「食われる? じゃあ、ジードも一緒に食べる?」
「へ? えっ」
「食事は大勢の方が美味いし。俺、実家では6人家族だったから、人が多い方が好きなんだよ。同級生なんだから、スフェンだってジードが一緒でも構わないだろ?」
「え、あ、まあ⋯⋯」
「二人きりになって、スフェンにまた手にキスされるのも困るしなあ⋯⋯」
ジードは俺の言葉に、眉を顰めて考え込んでいる。
「それに俺、ジードの食べっぷりが好きだ」
「す、すき⋯⋯」
「うん。だから今度一緒に夕飯食べよう」
ジードは真っ赤になって、こくこくと頷いた。ジードって結構、照れ屋なとこあるよな。
俺は、午後の勉強時間にレトに頼みごとをした。
スフェンに借りた本の解読を進めるのと、そこに載っている材料の入手法を知りたいと。この世界で普通に穫れるもので、俺は作りたいものがあった。そう、俺は、菓子を⋯⋯、スイーツを作りたいのだ。この世界には、果物や木の実はあっても甘味がない。昼の食堂はもちろん、国王陛下たちとの会食の席でもスイーツを見たことがなかった。
スフェンに頼んだのは、公爵家のデザートのレシピだ。菓子でなくてもいい、甘みを使った料理が載っている本が欲しかった。
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