あゆみ

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あゆみ

「ほら、右から三番目の子よ」妻がベッドの並ぶ新生児室を指さす。 「ようこそ」僕は、ガラスの向こうの我が子に呼びかけ、手を振ってみた。  しばらく続けたが、こちらを見てくれるようすはなかった。まあそれはしょうがない。まだ目なんて見えてないんだから。 「大変だったね、ご苦労さま」  赤らんだ頬の妻に微笑みかけた。 「名前は決めた?」命名は一任されている。 「うん。アユミにしようかと思うんだけど、どうだろう」 「いいんじゃない。字は?」 「愛するのあいに、弓矢のゆみ」 9c55ec31-afcb-46bb-8a4d-4d8bb9c794f5 「キューピッドの愛弓ちゃん」爪の先でコンコンッとガラスを叩き、妻が呼び掛けた。それに応えるように、愛弓が握った手をぐいと動かした。  あまりにもしあわせそうな顔に、口にしかけた言葉を呑み込んだ。  ヨーロッパやアメリカで起こったおぞましい魔女狩りが、いつごろこの国で復活したのか、いつまで続くのか、誰も知らない。
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