招待状

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招待状

「これ、おてがみ」  五歳になった愛弓が、ふたつに折った紙を妻に渡そうとしている。 「お母さんに?」 「ちがう。キリンさんにおてがみ」  愛弓は遊園地にあるウォーターショットのキリンが大好きだ。水鉄砲が的に当たれば動物が動くだけの他愛ないものだが、夢中になる。 「ふくろに入れて」 「封筒ね。わかったわ」 「うん。それからポスト」 「はいはい」  妻はそれをバッグに仕舞った。もちろん、どこに出すわけもないが、満足そうに愛弓は頷いた。  そのときメールが着信した。開いた内容に僕の心臓は重い鈍器でズンと殴られた。顔をしかめたまま読み進める。背中を虫が這い、やがてそれが冷たく伝い落ちた。 8946b2bb-4c50-47e8-9902-eaffd1613ff0  風呂上がりの愛弓は絵本を読んでいるが、妻は僕の異変に気がついたようだ。  すべての情報は握られている。彼らはどこまでも追いかけてくる。逃げ切ることは不可能だ。 「招待状だ」  自分が発した現実感のない声が、どこか遠くで聞こえた。妻にはそれだけで十分だった。見開かれた視線がさまよっている。  携帯電話の画面を向けたが、いやいやをするように首を振った。 「なんで!」うつむけた顔を覆った。 「今度の、日曜日だ」 「なにかの間違いよね」 「子ども全員に送られるはずだから、間違いだってある」  たとえ違っていても、戻ってこない可能性もある。魔女の根拠をどこに置いているのかさえ、知らされないのだから。 「おとうさんがおやすみのひにぃ、あゆみと、おかあさんと、おとうさんと、きりんさんにいく」ベッドの真ん中で愛弓がはしゃぐ。 「愛弓はキリンさんが好きだね」de88b8e3-fee8-4164-9288-f32b17f3c05a
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