かき氷

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かき氷

「愛弓、待ちなさい」  ゲートをくぐるやいなや、愛弓が走り出した。ぴょんぴょんと揺れるツインテールを妻が追う。こんな日が来ないで欲しいと願いながら、薄氷を踏む思いで過ごした五年間だった。  つかまえた愛弓を後ろから抱きあげ、じたばたする頬に唇を当て、ぶうぶうと鳴らす妻。くすぐったいのか、顔をくしゃくしゃにして騒ぐ愛弓。懸命に笑おうとする妻に胸が痛んだ。  風が吹き木漏れ日が揺れた。見上げた木々の合い間から観覧車が見えてくる。空を飛ぶバイキング。回るティーカップ。風を巻いたジェットコースターが、音を立てて宙を滑る 555dd152-899a-4b77-a5aa-af6fa9cc4360 「きりんさん」愛弓がつないだ手を引っ張りながらグイグイ歩く。  ご招待の方はこちら、と書かれたプラカードが見える。それを見ないふりはできない。家を出てからずっと、数人の男たちにマークされているからだ。 「愛弓、先にこっちだよ」妻が力のない声で愛弓の手を引く。  最初の課題はかき氷。並んだ子供たちは三十人ほど。これが招待を受けたすべての子どもなのだろう。親たちが不安そうに見守るなか、子どもたちは楽しそうにしている。  なにが起ころうとしているのかを理解した一般客が遠巻きにする。呼ばれた身にもなってみろ、黒々とした感情が胸の内でとぐろを巻いた。 「シロップはなにがいいかな」  二種類のシロップを持った、黒いポロシャツに黒いキャップ。黒ずくめお姉さんが小首をかしげて尋ねる。最後の晩餐、そんなむごい言葉が浮かび、強く頭を振って追い払う。  愛弓は、いちご、と指さした。大半の子どもがいちごを選んだ。 5bf2b118-f6a4-482f-aabe-b0c3c6c306c9  メロンを選んだ五人の子どもは違うテーブルに案内されて、そこで食べている。愛弓もスプーンを使っていちごのかき氷を食べた。  どちらを選べば開放されるのか、まだわからない。冷たかったのだろう、愛弓の肩がきゅっと縮こまる。 「メロンのお子さまたちはここで解散です。後はご自由に遊んでください」  お姉さんの声に、父母の歓声が上がる。幸運にも彼らはのだ。いちごが好きなら魔女の可能性が高いなど、無差別殺人に等しいじゃないか。
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