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メリーゴーランド
一周すれば現れる僕たちを励みに、愛弓は木馬にしがみついているだろう。やがて姿が見えた。
「愛弓!」ふたり揃って手を振る。愛弓も手を振り返してくる。
「ノンちゃん!」叫び声をあげた母親が、メリーゴーランドに向けて走り出した。長い長い絶叫が遊園地に響く。ノンちゃんと呼ばれた子どもがいなくなったのだ。なんと痛ましい。しかし回転木馬は止まらない。まだ終わりではなかった。
「偉大な大天使ガブリエル、いわゆる神の使者……」
母親がひざまずき、祈りを始めた。組み合わせた手はぶるぶると震えている。
もう一周回って戻ってきた木馬に、愛弓は乗っていない。ダメだったのだ。狂ったように走り出した妻を追った。木馬の上からすべての子どもが消えていた。
「私はあなたを私の左に連れて行きたい……」祈りの声は続く。
「手紙、もう一度見せてくれ」愛弓がキリンに出してくれと頼んだ手紙。
〈き り ん さ ん み か え る は く る ?〉
「ウォーターショットに行ってみよう」
「なに言ってるの! それどころじゃないでしょ!」泣きわめく妻の腕を引いた。
「愛弓が呼んでる気がする」噓をつくしかなかった。
日曜の遊園地は混み合っている。お父さんと子どもたちの後ろに並び、やっと順番がきた。消防車をかたどった座席に乗り込む。
「キリンだ、キリンを狙って」なんの根拠もなかったが、ただ立ちつくすだけでは妻の気がふれてしまうだろう。いまはなにかにすがるしかない。
「どうやって動かすの」
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