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舞い上がるキリン
「水鉄砲で的を狙って、赤いボタンを押すだけだ」
繰り返し撃つうちに、水鉄砲が的に当たった。とそのとき、キリンにみるみる翼が生えて、遊園地に雷鳴がとどろいた。人びとは不安そうに空を見上げた。解き放たれたように舞い上がったキリンが、翼を広げて飛んでゆく。
「メリーゴーランドに向かってるんじゃないか?」
アトラクションが終わらなければ降りられない。じりじりと時間が過ぎる。ゆっくり近づいてきた昇降口を、急き立てられるように降りた。妻の手を握り走った。
歓声が聞こえてくる。息を切らせながらも期待のこもった目を妻が向けてきた。間違いない。喜びの声だ。メリーゴーランドが見えた。
親子が抱き合っている。子どもたちが戻ってきた。祈っていた母親が深く頭を下げた。その後ろから愛弓が顔を出した。
「ミカエルさまが来てくださったそうです」
走ってきた愛弓を妻が抱き上げた。なにごともなかったかのような愛弓は、嗚咽をもらす妻に驚いている。怖い思いをしなかったのなら、それに越したことはない。
「ミカエルさま、というのは」母親に尋ねた。
「大天使さまです。そうよね紀佳」
ノンちゃんは頷いた。
「来たよ」
「お祈りをしていたのは、それですか」震えのおさまらない声で妻が尋ねた。
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