序章 …… 生者に憑くもの

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「どう視ても梶山が変です」 「え? ――ヘン?」  んん? とアカネがうなった。  修哉の肩に手をつき、身を乗り出す。宙に浮いた明るい色の髪が宙を舞い、流れる。毛束は修哉の肩にかからずに、修哉の身体へと入りこんで視えなくなる。  周囲の光景を半分ほど透過した姿が、眼の端に映った。アカネは眉を寄せ、眼を細めて梶山を凝視する。  じっくりと吟味して、いきなり声をあげた。 「あら、すごい!」  ねえねえ、ちょっとちょっと、と前を向きながら、後方に向けて手招きをしている。 「見てみて、グレ! ねえってば、面白いわよ」  なんでしょうか、と重低音の、腹に深く響く声が先に聞こえ、五歩ほど離れたところから威圧が現れる。覆いかぶさってくるかのような巨軀が修哉の背後に寄りつく。  あれは、とグレが声を出すのが聞こえた。  ふたりの気配が修哉から離れるのを感じた。アカネはふわりと泳ぐように上空から、一方でグレは生者と同じく床を歩く。店内の通路をを無視し、重量のある足取りで直進すると、障害物――店内の什器や観葉植物、そして客や店員を悠然と突き抜けて梶山へと近づいた。  通り抜けられた者たちは、次々と妙な表情を浮かべ、ぶるりと身を震わせたり、不審そうな表情で視線を泳がせている。 「あっ、ちょっ――」  思わず声がもれた。そして、あっけにとられた。  あれだけ梶山に近づくのを嫌がっていたアカネとグレが、修哉といるときと同様、パーソナルスペース、つまり心理的な縄張り空間、身体の周囲にある他者との間合いに親しい者は警戒無く近づけるが、それ以外は不快を感じる距離に無遠慮にも入りこんでいる。  アカネは梶山の真正面を陣取ると、顔に触れそうなほどに接近して覗きこむ。  グレに至っては神妙な面持ちで梶山の背後に回り、手を上下左右に動かしていた。触れるか触れないかの距離をあおいで、自らの分厚い手のひらを凝視する。その身体は、背景を半透明に透過している。  修哉は、驚きすぎて口が半開きになっていた。あのふたり、なにをやってるんだ? 一見、珍妙な光景にも視える。  そして、考えを巡らす。ふいに思い至った。  ちょっと待て。  霊を無自覚で吹っ飛ばして(はら)()けるはずの梶山が、アカネさんたちにちょっかいを出されてる。
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