第五章(1)…… 再来

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「私、お兄さんとちょっと話がしてみたいと思ったんですよ」  あたし、ではなく、わたし、と意図的にはっきりと発音した。  来て、と半袖の端をつままれる。小さな子どもの力ほどでしかなく、引っ張られてもこの身長差では微塵も動かせない。 「どこ行くんだよ」  マサキは、ぱっと振り向いた。「実はここらの土地勘、ないんですよね」  うーん、と考える。目尻を下げ、輝くような笑顔を向けてくる。 「どっか、いいとこあります? おごります」  あ、でも、とちょっと顔を曇らせる。「手持ちが少ないんで、できるかぎりあんまり高くないとこで。ごめんね」  表情がくるくると変わる。顔を見なければ、少年にも聞こえる中性的な声。 「オレもきみに訊きたいことがあるんだ。なんか訳ありっぽいし」  よかった、と安堵の笑顔を向けられる。「梶山さんの話題によく出てきたひとって、お兄さんだよね」  梶山が、オレのことをマサキに話した? いったいどういう経緯でそんな話題になるんだろう。 「ってか、お兄さんはやめてくれないかな。きみは梶山と同学年だろ?」  うん、と頷く。楽しそうに笑う。「背が高いから、てっきり年上かと思った」  なんだよそれ、と内心で思った。老けてるとでもいいたいのかな、と少しばかり不満が込み上げる。 「梶山と同じなら、オレともタメだろ」  そこまで言って、まだ名乗ってなかったことに気づいた。「オレの名は碓氷(うすい)」 「碓氷……さん」  ちょっと間が空く。「碓氷(うすい)さん、下の名前は?」  下の名まで、わざわざ確かめられるとは思っていなかった。不思議に思いながらも答える。 「修哉」  そう、とマサキが記憶に刻む目になる。 「僕は水沢マサキ。真っ直ぐに咲くと書いて、真咲」  よろしくね、と人懐こい笑みとともに、真咲は言った。
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