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「そうだな……どこから説明すれば良いかな。まずは先に、種明かしをしといたほうがいいよね」
「種明かし?」
うん、と頷く。
「そう、梶山さんにしか教えてない秘密」
人懐こい、きれいな二重の大きな瞳。睫毛が長い。
真咲は椅子に深く腰をかけ、姿勢を下げている。こちらを見上げる目。視線を合わせ、覗きこんでくる。
「僕はね、遙香の双子の兄なんだ」
は? と言い返しそうになった。
兄——男だと言われて、疑わずにいられるはずがなかった。
どう見ても、真咲は男に見えない。そもそも双子の男女は二卵性双生児であり、同時刻に兄妹、もしくは姉弟が生まれただけの話で、血縁として似はしても瓜ふたつの相貌には成り得ない。
思わず目の前にいる相手の胸に目が行った。まじまじと見ていた。目立つほどではないが、確実に女性体型の特徴がそこにある。
その時、背後から伸び上がる気配を感じた。半透明の人物が視野の外側に映る。左耳に寄せられた声が囁いた。
「シュウ、目つきがやらしい」
「——っ!」
反射的にアカネのほうを視ていた。しまった、と思った。焦りの表情が出てしまっている。
目線を逸らした修哉を認め、真咲は真顔でこちらを凝視している。
「あ……っと、ごめん」
ふふ、と真咲が笑い出す。「修哉さん、おもしろいね。すごく興味深い」
目線を手元に落とし、焼き菓子の透明な包みを破りながら、気にしたようすもなく続ける。
「まぁ、ふつうはそんな反応するよね」
もうひとつの可能性に思い至る。戸籍上の性別と自認が異なるケース。まずい、と思った。これは下手に触れると相手の気分を損ねる可能性が高い。軽はずみな言動は控えたほうがいい。修哉の思考を読んだかのように、真咲が口を開く。
「気にしないで。これはあくまでも、遙香が考えた設定だからさ」
「なに? 設定……?」
うん、と真咲は菓子に目を向けたまま頷いた。封を切られた焼き菓子——パウンドケーキからは、かすかにレモンの香りが漂う。
半分に折って、さらに半分の大きさにすると、口に運ぶ。
幸せそうに味わい、飲み込むとアイスティーに口をつけた。
「僕ね、イマジナリーなんだよ」
聞いたこともない言葉を耳にして、修哉は戸惑った。真咲は再度、イマジナリー、と繰り返した。
つまりね、と修哉に目を向ける。
「イマジナリーフレンド。僕はね、遙香の空想上の友人なんだ」
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