第五章(2)…… 秘密

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「そうだな……どこから説明すれば良いかな。まずは先に、種明かしをしといたほうがいいよね」 「種明かし?」  うん、と頷く。 「そう、梶山さんにしか教えてない秘密」  人懐こい、きれいな二重の大きな瞳。睫毛が長い。  真咲は椅子に深く腰をかけ、姿勢を下げている。こちらを見上げる目。視線を合わせ、覗きこんでくる。 「僕はね、遙香のなんだ」  は? と言い返しそうになった。  兄——男だと言われて、疑わずにいられるはずがなかった。  どう見ても、真咲は男に見えない。そもそも双子の男女は二卵性双生児であり、同時刻に兄妹(けいまい)、もしくは姉弟(してい)が生まれただけの話で、血縁として似はしても(うり)ふたつの相貌(そうぼう)には成り得ない。  思わず目の前にいる相手の胸に目が行った。まじまじと見ていた。目立つほどではないが、確実に女性体型の特徴がそこにある。  その時、背後から伸び上がる気配を感じた。半透明の人物が視野の外側に映る。左耳に寄せられた声が(ささや)いた。 「シュウ、目つきがやらしい」 「——っ!」  反射的にアカネのほうを視ていた。しまった、と思った。焦りの表情が出てしまっている。  目線を逸らした修哉を認め、真咲は真顔でこちらを凝視している。 「あ……っと、ごめん」  ふふ、と真咲が笑い出す。「修哉さん、おもしろいね。すごく興味深い」  目線を手元に落とし、焼き菓子の透明な包みを破りながら、気にしたようすもなく続ける。 「まぁ、ふつうはそんな反応するよね」  もうひとつの可能性に思い至る。戸籍上の性別と自認が異なるケース。まずい、と思った。これは下手に触れると相手の気分を損ねる可能性が高い。軽はずみな言動は控えたほうがいい。修哉の思考を読んだかのように、真咲が口を開く。 「気にしないで。これはあくまでも、だからさ」 「なに? 設定……?」  うん、と真咲は菓子に目を向けたまま頷いた。封を切られた焼き菓子——パウンドケーキからは、かすかにレモンの香りが漂う。  半分に折って、さらに半分の大きさにすると、口に運ぶ。  幸せそうに味わい、飲み込むとアイスティーに口をつけた。 「僕ね、イマジナリーなんだよ」  聞いたこともない言葉を耳にして、修哉は戸惑った。真咲は再度、イマジナリー、と繰り返した。  つまりね、と修哉に目を向ける。 「イマジナリーフレンド。僕はね、遙香の空想上の友人なんだ」
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