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第五章(3)…… 特技
理解が追いつくのに時間がかかった。
正直、時間がいくらあっても、心底理解できるとは思い難い。
黙り込んだ修哉を気にすることなく、真咲は菓子をぱくついている。
「本来、イマジナリーフレンドを持つ者って、さほど珍しくないらしいんだ。たとえば、幼少の時期。人形とかぬいぐるみとかね。女の子に限らず、男の子がヒーローもののフィギュアとか相手に空想の世界で遊んだりするでしょう? あれのちょっと高度版というか、違う人格と自意識を行ったり来たりする状態がね、幼少で卒業しないままずっと続くひともいるんだって」
それだけなら病気とは言えないんだよ、と付け加える。
「遙香は、ほかよりすこしばかり家族に恵まれなかった。両親が幼いときに離婚してしまったんだ。まあどっちが悪いかなんて僕にはわからないけど、片親に育てられることになった。いつも仕事で家を空けていた母親の愛情が得られない寂しさからか、僕が遊び相手だった」
イマジナリーを作る子どもは、想像力が豊かで、ちょっと傷付きやすい心を持っているんだよ、と真咲は静かに話した。
「僕は遙香の遊び相手であったけど、もうひとつ重要な役割を与えられた」
小さく息を吸って、ゆっくりと発音する。
「彼女の心を守る役割」
そう真咲は言った。真咲が存在する意味。使命のように聞こえた。
「遙香の母は、かなり気の強い人でね。娘が父親に似るのを許さなかったんだ」
「許さないって……そんな性格的なもの、本人がどうにかできるわけないだろ」
「まあね。大体さ、子どもなんてのは、親の言うことまるごと全部聞いて育つわけないんだよね」
反抗期だってあるしさ、と付け加える。
それこそいいなりになって生きてたら、社会でうまく適応できなくなるでしょ、と肩をすくめる。
「でも、一切許されないんだ。言うことを聞かないと、一日外に出してもらえなかったり、食事も出てこない。逆らうと面倒なことになるから、すべてあきらめて従うしかなかった」
明るく笑うことも、大好きなものを見たり、したり、話し合ったり、自分の大切なものを主張することも、なにも許されない。真咲はそう言った。
「親とは言え、同性同士だからこそ許せなかったのかもしれないね。だけど、いい迷惑だと思わない? 容姿が父親に似るのって、自分ではどうにもならないじゃん」
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