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いっそ手放してくれればいいのに、と溜め息交じりにつぶやく。
「でも、とっくに父親は別の家庭を作って、めちゃくちゃ幸せそうにしてるしさ。向こうで新たに誕生した男女ふたりの異母姉弟の中に入り込んで、二十四時間堂々としてうまくやっていけるほど鋼メンタルには、さすがになれないんだよ」
おまけに母親を棄てた娘という烙印がつくんだもの、できるわけないよね、と笑う。
行くところは他にない。我慢すれば生きてはいける。母親の良しとすることだけをこなし続け、表面上では良い娘を演じ続けた。
母親にとって、都合のいい娘をずっと。
「本来、遙香が持っていた快活さや、行動的なところ、父親譲りの豪快さみたいなものは僕が引き受けた。僕らは半分ずつ分け合って、バランスを取っていたんだ。なんとかうまくやっていけてた」
半分こ、と真咲は目の前で合わせた両手を開いて見せた。
「ひとつの人格をふたつにわけるとね、当然……性格も半分ずつになるんだよね」
「半分……?」
そう、と顔をわずかに傾けて言う。「人間の持つ感情表現の幅っていうか、濃さみたいなものも半分になるみたい。通常より、反応が薄まっちゃうっていうか、軽いっていうか」
「真咲もそう感じてるのか」
そうだなぁ、と真咲はちょっと考えた。
「自分ではよくわからない。それでも僕らはひとつの記憶を共有してたから、ひとりの人間としては大きな問題は起こさずにいられた」
だけど、と顔を曇らせる。
「本当に梶山さんには申し訳ないことをしたよ」
「なにをしたんだ」
「彼を入院させる原因」
やっぱり、と思った。
「言い訳になってしまうけれど」
真咲はカップに浮く氷を、ストローでつついている。
「時期が悪かったんだよ」
大きく、溜め息をついた。「あんなこと、遙香に起こると思ってなかった」
「なにがあったんだ」
感情的に聞こえないように、努めて冷静に訊ねる。真咲は目線を上げて、修哉を見た。
口が開くが、まだ声は出てこない。
修哉は決心をうながすように、先に伝えた。
「梶山は最後まで、誰ひとりにも、きみがやったことを話さなかった」
梶山は言った。あれは自分が勝手にバランスを崩して落ちたんだ、と。
偶然、居合わせた水沢遙香が助けを呼んでくれた。
助けてもらったんだ、と言った。
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