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「あいつがどこまで本当のことを言ってるのか、オレにはわからないけど、きみのことを大切に思ってるのだけはオレにも伝わってる」
「ありがと」
はじめて気弱な笑顔を見た。
「梶山さんはね、遙香と僕の違いを見分けたんだよ」
修哉は、病室で梶山が言った言葉を思い出していた。マサキと呼んで、遙香を怒らせた時。
——瞬時に判断つくかよ、難度高過ぎだろ……。
しくじった、という顔をして激しく後悔していた。
「イマジナリーは、ひとつの身体にふたつの人格を分け合ってるから、傍目には、ひとりの人間が時に機嫌が良かったり、別人のように感じが悪かったりして見えるんだ。感情の揺れが激しい人って印象を持たれたりする」
取っつきにくい相手として認識されることもあるよ、と続ける。
「だけど、記憶は続いてる状態で、両方が互いの言動や行動を認識してる。それだけなら病的とは言いがたいけど、強いストレス下で症状が進むと問題が起こるんだ」
「問題?」
うん、と頷く。「そうなるともう、互いの制御が利かなくなる。れっきとした病名がつく」
「なにかあったのか」
「まあね」
真咲は首を傾げて、微笑んだ。「いろいろ重なった。まずは僕が梶山さんと話すようになって、同時期に母親に新しい男ができた」
困ったもんだよね、と首を傾げて苦笑する。
「それなのに僕は遙香に、付き合うなら梶山さんみたいな人がいいよ、って言ってしまったんだ」
軽はずみだったよ。でも、遙香に幸せになってほしかったから、純粋にそう思ったから、伝えてしまったんだ——
「母はね、男になんか頼るな、結婚なんか最低だ、男なんてロクでもないって散々、遙香に言い聞かせてきたんだよ。絶対に男となんてつきあうなって感情的に怒鳴りつけて拒絶してきたんだ。自分の失敗を娘には絶対に許さない、まるで世の殺人と同等のごとく大罪を犯すかのようにね。なのに突然、手のひら返しで宣言されちゃってさ。二十歳まで面倒見たんだから、もうこれからは好きにさせてもらうって、その日に見知らぬ男といっしょに家から出て行っちゃうんだから」
もうどうすればいいやら、と大きな溜め息をつく。「いまどこにいるかもわからないんだ。いくらなんでも酷いと思わない?」
修哉は二の句が継げなかった。そんな無責任な。親としてそんなのが許されるのか。
でも、成人すればもう一人前だ。放り出されても文句は——言えないのか? え? そんなの有りなのか?
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