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真咲の感謝を受けて、修哉は戸惑った。
見つけられたのは、本当はオレだけじゃない。松田のほうが先に見つけた。あいつは優しいから、幸歩の――いや、水沢遙香の気配に気づいた。
オレは違う。感謝されるようなことはなにひとつしていない。悪影響を及ぼすという理由で、水沢遙香から分離した、幸歩の生き霊をただ梶山から引き剥がしたかっただけだ。
ことによれば、生き霊を飛ばしている元凶、つまり水沢遙香も真咲もどうなろうと構わないとすら考えていたのだから。
「あの時ね、幸歩はすごく怒ってたけど、遙香は素直に安堵してたよ。だれも見ないわけじゃなかったって」
遙香も自分の矛盾に気づいたんだよ、と真咲は言った。
だれも見ない。アカネが以前、同じことを言った気がする。
——あたしはシュウに気づいてもらえるまで、存在していないのも同然だったの。
頭の中で声が閃いた。修哉は思い出した。
「なにもあたしを見ない。見てもらえないのは、自分の存在がないのも同じだわ」
修哉がアカネを視るようになってから、彼女はそう伝えてきたのだった。
視線が合うものがだれもいない。すべてが自分を置いて、素通りしていく。
なにもかもがむなしい。自分が本当に存在しているのかどうかすらわからなくなる。
いてもいなくても、だれも気づかない。寂しい。
ああ、そうか。やっとわかった気がする。幸歩だけでなく、遥香も、真咲ですら、誰もが、皆が。
本当は——誰かに気づいてほしい。
たったひとりでもいいから、自分のために笑いかけてくれるなら。それだけで、まだしばらくここに存在していていいと思えるから。
真咲が身をよじり、封筒を取り出してテーブルの上に差し出す。
「あとこれ、梶山さんに渡してもらえないかな」
ポケットに入れていたのか、縦長のシンプルな白い封筒がふたつに折りたたまれている。
「持ち歩いてたから、ちょっとくたびれちゃったんだけど」
「手紙?」
「うん。一応はひととおり経緯を説明して、ちゃんと謝っておかないといけないと思って用意してたんだけど、住所がわからなくて」
こんな機会はもうないだろうし、ぜったい家をつきとめてポストに入れとこうと思ったんだけど、と言って肩をすくめる。
「車で帰られたらお手上げだもの」
「家まで着いてくつもりだったのか」
修哉は驚いた。
「だって遙香が望まないかぎり、もう会えないし」と寂しげな顔をする。
「だから、修哉さんに声をかけたんだ」
「わかった、預かるよ。つぎに会うときに渡しとく」
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