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「本当はね、こんなもの持ってても渡せないと思ってたんだ。ほとんど自己満足だし、もらっても困るかなとも思ったし」
「梶山は、オレが真咲から手紙を預かってるって話しただけで喜ぶと思うぞ」
「そうかな」
間違いないよ、と応じる。
真咲ははにかむように笑った。「それなら嬉しいけど」
そう言って、じっと見つめてくる。
「なに? まだ他になにかあるのか?」
ううん、と首を横に振る。「なんか、僕の言うことを疑いもせず、こんなに簡単に受け入れてくれる人っていなかったから。梶山さんが言ったとおりだったなって思って」
「あいつが? なんか言ったのか?」
「修哉さんは時々、梶山さんと見てる世界が違うみたいだって」
ドキリとしながらも、とっさに取り繕う。「そんなの、人間みんなが同じ世界を見てるはずがないだろ。考えることが皆、それぞれ違うようにさ」
「うん、そうだね。だけど、僕らが見えている世界と、修哉さんが見ている世界はちょっとだけ似てるんじゃないかって言ってたよ」
見透かすような目。無邪気な、透明な視線が向けられている。
「それは——」
そのまま言葉を飲み込む。左隣にアカネの気配、背後にグレの気配がしている。鏡面と化した夜の窓ガラスに、真咲の後ろ姿と自分の姿が反射している。当然、死者たちの姿は写らない。
耳元にアカネが口を寄せるのが、修哉の視界の端に入る。
「似てるかも。だけど、違うわよね」
「ああ、……そうだな」
こちらを真顔で見ていた真咲の表情が、ふっと笑み崩れる。
「そういうのは特殊な技能だから、引け目を感じる必要はないって梶山さんは言ってくれたんだ」
「あいつは、そういうやつだよ」
うん、と頷く。
「そうだね、でも嬉しかったよ」
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