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あとは梶山と水沢遙香、両人のあいだで解決すべきことであって、修哉がどうこう口を出す問題ではない。梶山も大ごとにするつもりはないだろうとわかっていた。
「なにかあれば、梶山でもオレでもどっちでも構わない。連絡して」と言って、メモ書きのアドレスを差し出す。
「相談に乗るよ。ないよりはマシだろ?」
「そんなことない、すごく嬉しいよ。お守り代わりに受け取っとく。ありがとう」
駅前まで戻り、改札機の手前で真咲は修哉に向き直った。
「ねえ、ひとつだけお願いしてもいい?」
「——なに?」
この流れはなんとなく想像がつく。修哉は左側にアカネ、背後にグレの気配を感じとっていた。
「修哉さんのイマジナリーってどんな人?」
「……」
修哉は気づいた。真咲が下の名を伝え、こちらにも訊ねた理由。
自分は誰であるか、相手も誰であるかを確認したかったのだ。それぞれの名前をはっきりさせ、今は誰なのかを知りたがった。
「あ、嫌なら話さなくてもいいんだ」
ちらりと修哉は左側に目線を流した。アカネが伸び上がって、こちらを見下ろしている。興味津々の顔つきが視えた。
本当は違うんだよな、と考える。真咲にしてみれば、さほど変わらない存在かもしれないとは思う。でも、説明は——できればしたくない。話し始めれば長くなるのがわかってるから。
修哉は小さく息を吐いた。
「面倒見はいいけど怖いお姉さんと、人情派のヤクザなおっさん、どっちがいい?」
アカネとグレ、両者の思惑が突き刺さって、身体の芯が急激に冷えていくのがわかる。なんだよ、文句あんのか。まんまを伝えただけじゃないか。
え、と真咲が身構える。「じゃあ……お姉さんのほう」
またずいぶん高いほうの要求をされた、と思った。
「わかった。見ても驚かないでほしい。……あと、梶山には内緒な」
うん、と真咲の顔がほころんだ。
目を伏せ、呼吸を深く、下肢に力を入れて倒れないように備える。するりとアカネが入りこんでくる感覚に、目の前が淡く霞んで、真咲の姿が違って視える。
大丈夫だ、こんなにも真咲——目の前の生者は生命力に満ちている。光り輝く生命力を放ち、悪いものを寄せつけない。きっと自分で未来を切り拓いていけるだけの気力を保っている。
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