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「――何だったんだ」  夢、にしては長い時間だった。 「うわっ、母ちゃんからめっちゃライン来てる」  けれど、あれは夢だ。その証拠に何が出てきたのかよく覚えていない。  残り僅かなスマホのバッテリー同様、体も心もどっと疲れていた。こんな薄気味悪い蔵で寝てしまったせいだろう。  蔵を支えるように枝を伸ばす木には、花など咲いていない。薄紅の光る花に思えたのは、きっと格子の向こうの窓から差し込む夕日のせいだ。  早く母屋に戻らないと――。 『兄さま』    覚えのある声が響いた。全身を巡る血が一瞬にして冷えていく。  後ろにいるのは――。 「だれ……?」  儚い笑顔に白い着物。  霊的なものにしては怖くない。何となく今ここにいる人間だと分かる。ただ……。 「やはりお忘れになってしまわれたようですね。無理もありません。あれから永い時が経っているのですから」  座敷に張り巡らされた根っこと、彼の足は同化していた。 「その『すまほ』で、どうか私のことを思い出してください」  彼は「アルバム」も「写真」も知っていた。  言われた通り確認すると、最新履歴には――目の前の男の子と瓜二つの誰かが、並んで映っている写真がある。  その写真を目にした途端。   「命……?」    本来あり得ない経験が、確かなものとして還ってきた。 「あ、あれは夢だ。それにオレは、お前の兄じゃ……」 「兄さまと私が出会ったのは、今よりはるか昔のこと――ですが私の兄さまはあなた様です。同じ胎より生まれ出でた片割れではなく、あなた様なのです」  命の深淵のような目が、確かにオレを捉えていた。   「約束、覚えていらっしゃいますよね? さぁ、外のことを教えてください! 幾百年ぶりの再会……心ゆくまで語り明かしましょう」    ぎぃ、と音を立てて背後の戸が閉じる。 「逃さない」、というかのように。  ー終ー
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