3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
結
「――何だったんだ」
夢、にしては長い時間だった。
「うわっ、母ちゃんからめっちゃライン来てる」
けれど、あれは夢だ。その証拠に何が出てきたのかよく覚えていない。
残り僅かなスマホのバッテリー同様、体も心もどっと疲れていた。こんな薄気味悪い蔵で寝てしまったせいだろう。
蔵を支えるように枝を伸ばす木には、花など咲いていない。薄紅の光る花に思えたのは、きっと格子の向こうの窓から差し込む夕日のせいだ。
早く母屋に戻らないと――。
『兄さま』
覚えのある声が響いた。全身を巡る血が一瞬にして冷えていく。
後ろにいるのは――。
「だれ……?」
儚い笑顔に白い着物。
霊的なものにしては怖くない。何となく今ここにいる人間だと分かる。ただ……。
「やはりお忘れになってしまわれたようですね。無理もありません。あれから永い時が経っているのですから」
座敷に張り巡らされた根っこと、彼の足は同化していた。
「その『すまほ』で、どうか私のことを思い出してください」
彼は「アルバム」も「写真」も知っていた。
言われた通り確認すると、最新履歴には――目の前の男の子と瓜二つの誰かが、並んで映っている写真がある。
その写真を目にした途端。
「命……?」
本来あり得ない経験が、確かなものとして還ってきた。
「あ、あれは夢だ。それにオレは、お前の兄じゃ……」
「兄さまと私が出会ったのは、今よりはるか昔のこと――ですが私の兄さまはあなた様です。同じ胎より生まれ出でた片割れではなく、あなた様なのです」
命の深淵のような目が、確かにオレを捉えていた。
「約束、覚えていらっしゃいますよね? さぁ、外のことを教えてください! 幾百年ぶりの再会……心ゆくまで語り明かしましょう」
ぎぃ、と音を立てて背後の戸が閉じる。
「逃さない」、というかのように。
ー終ー
最初のコメントを投稿しよう!