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 3、2、1――スタート。 「こんにちは~瑛士(えいし)です! 今回の企画は『由緒正しい実家の蔵を開けてみた』、ということで、某県にある母方の実家へやって来ました~」  親戚たちが夕涼みをしている今しかチャンスはない。  そう思い立って、スマホ片手に母屋を抜け出した。 「はい、こちらはうたた寝中の祖母から借りてきたアイテム、『蔵の鍵』で~す」    お盆の時期に帰省すると、ばあちゃんは決まって「裏の蔵には近寄るでない」、と怖い顔で言う。イタズラを防ぐための脅しかと思っていたが、中学に上がった今でも言い続けてくるということは……。 「ではでは、開けてみましょ~」    この蔵には絶対に何かある。  確信をもって、色あせた扉に手をかけた。 「あ…………」    扉を開けた瞬間。薄紅の花びらが頬に触れた。  桜だ。  満開の桜が、夏に。それも蔵の中に枝を広げ、咲き誇っている。  暗闇の中でも分かったのは、花が自ら光を放っていたからだ。  入り口と桜の木の間は、天井から降りる格子に遮られている。 「これは……牢屋みたい、ですね」    桜の木の根元は、風化した畳に囲まれている。  こんな大きな木、どうやって生えているのだろうか――。  スマホを構えながら座敷に近づいた、その時。   『待ち焦がれたぞ』  透き通った声が、頭の中に反響した。
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