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1.
高校2年になった春。
4階から3階に下りた教室には、クラス替えで知らない生徒もちらほらいる。
黒板に張り出された座席表を見た本田 涼太は自席に向かい、椅子を引いて腰を下ろした。
通学鞄から教科書や春休みの課題を出して机の中に移すと、軽くなった鞄を横に掛ける。
特別することも無く暇だったので、ペンケースを開けてはペン回しをして遊んでいた。
「あ、」
不意に指先から離れたペンが前方の椅子の金属部分に当たり音を立て、そのまま床へと転がる。
前席の生徒がまだ登校していなかったので、涼太は立ち上がり、その椅子を退けるとペンに手を伸ばした。
「おい」
手に取ったと同時、頭上からそんな声がして。
見れば、"邪魔"とでも言いたげな目でこちらを見下ろす長身の男子生徒が立っていた。
「あぁ、ごめん!ペンを落としちゃって」
「……」
言って涼太が退くと、相手は黙ったまま机上に鞄を置く。
毛先に少し癖のある艶やかな黒髪。
切れ長の目元に通った鼻筋、真一文字に引き結んだ唇。
目の当たりにした彼の端正な顔立ちに、格好良いなと感心する。
さっきの自分と同様に荷物を整理しているその横顔に、涼太は「おはよう」と声をかけてみた。
動いていた両腕が止まり、ゆっくりとこちらを向く彼。
「……はよ」
目が合ったので笑いかけたら、少しの沈黙の後そんな挨拶を返してくれた。
無表情だし不機嫌そうに見えたけれど、これが彼の通常運転なのかもしれない。
冷たい人なら、こんなふうに返事をくれたりしない。
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