結の描く未来

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 大我君と付き合い始めたのは、高校1年の秋。元々、私と彼は小学校が同じで。小学3年生の時、初めて同じクラスになった。 彼は頭も良く、運動も出来た。だけど、頭が良いからか、小学生にしては難しい言葉を使うし、小学生で習う範囲の事は幼稚園の頃に終わっていたようで。いつもつまらなそうな顔をして、授業を受けては、先生に怒られたり、テストを受けていても。途中式がないからとか、習っていない事で問題を解いたからと、なにかと言われて減点されていた。  個人戦では彼の運動能力が生かされるのだけど。団体戦となると、単独プレーが多すぎてチーム内で揉めたり、大我君、1人いるだけで試合が有利に進む事を理由にチーム同士が揉め合うトラブルが起きた。 本人の性格はもの静かで、休み時間のほとんどは読書か、睡眠。話しかけると、無視するか。睨み付けるかの2択。  その性格が理由で、クラスメイトや大人達から。評判があまり良くなかった。生意気だとか、子供らしさも、愛らしさもないから。 私は大我君と仲良くなりたい!と思い、同じクラスになった事をきっかけに。大我君に話かけた。 「どこ、住んでるの?」 「その本、なぁに?面白いの?」 「次、体育だよ~起きて~」 大我君は、最初私が話しかけても。鬱陶しそうな顔をしていた。だけど、話かけていくうちに。相づちをうってくれるようになり。 2学期の終わりには少しずつ単語だけ話してくれるようになった。 うん。とか、そうだな。とか、そんな感じに。 これから、もっと仲良くなれる!そう思った時。春休み初日に私は大我君と近所の公園で遊ぶ約束をしていたが…大我君はその約束を破った。  4年生になった時、彼の姿どころか。彼の名前もなく。家庭の事情で引っ越した。と言われた。    月日が流れ。  私は付属大学への進学を条件に高校の学費を免除してくれる私立高校の特待生となり、そこで大我君と再会した。  大我君は小学生の時から変わらず、誰とも関わりを持たず。いつも1人だった。授業態度もあまり良くないようで。ほとんど授業には出ず、その時間を昼寝と読書に費やして。 でも、テストを受ければ、それなりの結果は残せるのだから。皆、彼の事をよく思っていなかった。  でも、本当の大我君は。誰よりも傷つきやすくて、脆くて。触れば、壊れてしまう程。繊細な人だった。  でも、それを大我君はずっと隠して生きていた。  誰にも理解されないから。その一言が全てだった。  付き合ってもう、4年になるのに。私が大我君の事で心配になるのは。その性格によるもの。  「ねぇ、亜実ちゃん。大輝君。いっつも可愛いとか言ってるよね?」  「うん…」  亜実ちゃんは顔を真っ赤にして頷いた。大輝君は私達が見ていようが見ていまいが。必ず亜実ちゃんに可愛い。とか綺麗とか。言っている。 比べる訳じゃない。大我君の性格を考えれば、そんな事を言い出す人ではないのだけど…  「なんか、不安になるの」  いつも、デートはお互いの家。大我君は読書をしたり、寝たり。それに飽きたら。私に抱きつき、匂いを嗅ぐ。  大我君は私を抱きしめる度に。肩や首、うなじの匂いを嗅いでくる。それがくすぐったい。いやだ。と言っても。大我君はそれを無視して私の匂いを嗅ぐ。抱きつく以外の事はしない。ただ、私の隣で本を読んだり、私にもたれかかって寝るぐらい。  最近はそれもなく、パソコンとにらっめこ。大学生なのだからパソコンとにらめっこしてもおかしくはないのだけど。  それ以外にも、紙の束とにらっめこ。それ以外にも、携帯をじっと見ていたり、ノートを開いて、何かを書き込んでいたり。ととにかく怪しい。  「なにしてるの?」  そう聞いても、大我君は何も答えてくれない。たまに大学の課題だ。と言っているが… 彼は隠し事をする時、首を掻く癖があり、いつもその癖が出ていた。 嘘。と分かっていながら。私は大我君が何を隠しているのか聞けずにいる。そして、彼が本当に私の事が好きなのか。と…    「結が好きだ。お前なしじゃ、生きられない」  それが、大我君からの告白の言葉だった。その時の大我君は心も体も疲弊しきっていて。触れたら、壊れてしまいそうで。それ程弱っていた時。彼は私にそう言った。  「私も、大我君の事。大好きだよ」  それが私の告白の返事だ。勿論、その時の私は本気で大我君の事が大好きだったし。大我君に同情して好き。と言った訳ではない。  ずっと、前から。大我君の事が好きだったのだ。その気持ちに気付いたのが丁度その頃で。大我君の事が好きだと自覚した途端。大我君の事を考える度、胸が苦しくなって、声も笑顔も、匂いも。大我君の全部が恋しくなった。  「本当か?嘘じゃなよな?」  大我君は私の言葉も信じられない程、弱っていた。私は何度も大我君に言い聞かせた。大我君は最初こそ、信じられないような目で私を見ていたが。徐々に落ち着きを取り戻していた。        
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