心にある水槽

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心にある水槽

 維桜(いお)、もう二年近く経つな。まだ苦しんでいるのは、父さんも母さんも分かってる。でも、人はみんなそれぞれ大きさの違った苦しみを抱えながら生きているんだよ。  ――パパの言ってること、分かんないよ。自分より大きな苦しみを抱えて生きている人を見て、自分はマシだと思えってこと?  違うよ。誰かの苦しみと自分の苦しみを天秤にかけることなんてできやしない。人はね、みんな心の中に水槽があって、その水槽は形も大きさも違うんだ。水槽が小さな人は、少しの水で心がいっぱいになるけど、水槽が大きな人は、たくさんの水を受け止めることができる。だから、だれかの不幸と自分の不幸を天秤にはかけられない。  ――右足を失うなんて、わたしにとっては世界一不幸な出来事よ。  そうだね。今はそう思っていいのかもしれない。でも、維桜は生きているんだよ。今も、これから先も、ずっと。その時間をどうやって使うのかは、自分で決めるんだ。世界一不幸な女の子として生きるか、世界一幸せな女の子として生きるのか。  ――世界一幸せなんて無理だよ。だって、わたしの夢はもう……。  父さんは、そうは思わないよ。まだ高校生なんだし、維桜の心と身体が生きている限り、チャンスはいくらでもある。ママもモデル事務所の社長さんと交渉を続けてくれてる。前向きに検討してくれているみたいだよ。  ――でも、もう右足は……。  維桜、嫌かもしれないけど今日はちょっと父さんたちとお出かけしよう。維桜に見せたいものがあるんだ。
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