十二月 親衛隊は推しが卒業したら解散するルール

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 元サッカー部だった武田は慣れた様子で部室の中へと進んでいく。  サッカー部の部室はひとつの建物だ。部の生徒たちのロッカールームだけではなく、専用のトレーニングルームやシャワールームなども完備されており、学内における待遇のよさが伺える。 「吉良先輩……っ!」  シャワールームから出てきたのは上杉だ。上杉は腰にバスタオルを巻いただけの格好で話しかけてきた。まだ身体から蒸気がのぼっているから、シャワーを浴びたばかりなのだろう。 「上杉! いい試合だったよ」  労いの言葉をかけてやる。それにしても上杉は男らしい鍛え上げられたいい身体をしている。帰宅部の吉良とは雲泥の差だ。 「……いい試合なんかじゃないです……。俺、もっと先輩にかっこいいところ見てもらいたかったのに……」 「いや。いい試合だったよ。後半は少しバテたのか? でも前半は完璧だったろ?」 「体力はありました。でも、試合に集中できなくなって……。俺はまだまだです。プロになるなら、メンタルも鍛えなくちゃダメだと今日学びました」  あれだけのプレーをしておいて、上杉は反省している。こうやってひとつひとつ強くなっていくのか。 「吉良先輩。俺、着替えてきます。そのあと吉良先輩と話し、したいです。少しだけ待っててもらえませんか?」 「ああ。いいよ」 「ありがとうございます!」  上杉は律儀に頭を下げて、ロッカールームへと駆けていった。
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