夏の始まり

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 「ほら、高校の時さ。付き合いたての頃、高校卒業したら働いて私を幸せにするからって、そう言ってくれたじゃない?まさか君からそんなこと言われると思ってなくてさ、私めちゃくちゃ笑っちゃったじゃん。」  俺の予想とは違う話を彼女はしたが、それはそれで話して欲しくもなかった。と言うのも、その思い出は恥ずかしくて仕方がない。  そうは言っても、俺は本気だった。だから高三で就活をして、働き口を見つけ就職したのだ。確かに彼女には笑われてしまったが、あの頃は本気で上手くいく未来を見ていた。  「笑っちゃってごめんね。でも本当に嬉しかったんだ。君なら一生私を大事にしてくれると思ってた。知らないだろうけど、君って結構優しいんだよ?」  その言葉が更に俺の胸を締めるような感覚を覚えた。  優しいはずがない。優しければ、こんなことにはなっていないのだから。  「だから次はきっと上手くいくよ。でも変な人には捕まっちゃだめだよ?無愛想だけど、君はすぐに人に優しくしちゃうから。ずっと心配なんだよねー。」  脳天気な彼女はそうやって俺に気をかけてくれる。毎年そうだ。会う度彼女は俺の心配をする。ちゃんとご飯食べてる?など聞かれては、あの頃のように空返事を返してしまう。本当は気にかけてくれていることが嬉しいが、素直に喜べないのが俺の性格だろう。
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